175話 神、始動
誤字報告感謝!
【世界蛇】の出現で人の姿が全く無い街の中、俺と蒼は家に向かって歩く。
情けない事に、俺は蒼に背負われている状態だが。
「ははっ、恰好悪いな」
「そんな事ないよ。私のために頑張ってくれたんだから、格好悪い所なんて一つもない」
「そ、そうか」
あの後、俺の両足は突然動かなくなった。左目も以前とは変わっているらしく、言われてみればいつもと感覚が違うように思う。
おそらく無理に能力を使った反動だろう。この程度で済んだことを喜べばいいのかどうか、一生足が使えないとなると少々困るが、まあその時はその時だ。
「ただいま~」
「このまま寝るか」
玄関のドアを開くと、リビングの方から足音が聞こえて来る。
「ようやく帰ってきましたか。食事の準備はもう・・・・・・」
玄関にやって来たシャルティアさんが俺達を見て言葉を止める。
「・・・・・・柳隼人、貴方妹に背負わせるなんて。兄として以前に人間としてここで殺した方がいいでしょうか」
「誤解ですよ! 足が動かなくなったからしょうがなく!」
取り敢えずリビングに移動して事情を説明する。
「成程、そういう事ですか。粗方の状況は送られてきた情報で理解していましたが」
シャルティアさんは思案顔で俺の足に手を当てる。
「触れられている感触は分かりますか?」
「・・・・・・残念ながら」
痛覚と触覚まで消えている状態らしい。
隣で今にも謝りそうな表情をしている蒼にサムズアップする。
「心配すんなって。俺は記憶喪失からも復活した男だぜ? この程度乗り越えられん訳ないだろ」
「・・・・・・うん」
「全く」
蒼には笑顔が一番似合うから早く復活して貰いたいものだが、少し時間が掛かるかもしれない。俯いた頭を撫でる。
「それにしても代償とは、貴方の能力は想像以上に厄介な代物のようですね。この事は外部に漏れないようにしなければなりません。無暗な行動はしないように」
いいですね? と強めの眼力で言われれば俺は頷くしかない。なんだかシャルティアさんが先生みたいに思えてくるなあって、一応先生でもあるのか。俺が学校に行くとき限定だが。
さて、夕飯を食べようかというタイミングで玄関のドアが開き、帰還を知らせる爆乳先輩のか細い声が聞こえた。
そのままリビングのドアを少し開いたところで、隙間からこっそりとこちらを窺っている。
「何をしているのですか?」
「い、いや~ ちょっと入りづらくて」
ソフィアさんの瞳が泳ぎまくっているが、蒼に向けられた時、一瞬安堵したように見えた。
「何かあったんですか?」
「えっと、実はねっと、ん? 隼人君なんか体勢がおかしくない? それに片目も色が違うし」
体が安定しないのを見抜いたソフィアさんが尋ねる。
能力の反動である事を簡単に伝えると、ソフィアさんは申し訳なさそうに『ごめんね・・・・・・』と呟いた。
「いやいや、別にソフィアさんが謝る事なんてなにもないですよ!」
「・・・・・・実はね」
続けてソフィアさんが理由を説明する。
蒼が襲われている現場に遭遇した事、考えがあったとはいえ助けられたはずの場面をみすみす逃した事を語ってくれた。
どうやらそれで罪悪感を抱いている様だが、俺は特に怒りは感じない。
どちらにせよ蒼の荒療治は必要だっただろうし、この展開を生み出したのはあの男であるからだ。
「本当にごめんね・・・・・・」
「もう一度言いますけど謝る必要はないですよ。結果オーライならなんでもいいじゃないですか。それに、貴方は蒼の事を考えて行動してくれた。その事に対して批判するなんてのはありえないです」
「うぅ~ ありがとぅ~!!」
ドアがばっと開き、ソフィアさんが抱き着くと二つの核兵器が俺の顔を覆う。
威力は抜群だ。油断すれば赤い鼻水が溢れ出してしまうかもしれない。あと、近くで般若になっているシャルティアさんを誰か止めてくれ。
その後、夕飯を食べ風呂の時間になり、蒼が入浴した時、
「柳隼人、少しいいですか」
「ええ、なんでしょうか?」
シャルティアさんに呼ばれ、俺は宙を飛行して移動する。
これは【伝令神】の神話文字を服に描く事で飛行を可能にしているのだが、かなり操作が難しい。
「車椅子の手配は済ませましたから、もう少し辛抱して下さい」
「何から何まで、本当にすいません」
もうシャルティアさんには足を向けて寝られないな。なにか好きな物とかがあれば、お礼として是非プレゼントしたいのだが、本人はそんなものは無いと言っているし、どうしたものか。
「別に構いません。それよりも、貴方の妹についてです。【世界蛇】との戦闘の映像が世界各所で出回っているようで、少々面倒な事になりました」
「やっぱりバレますか」
「当り前です。SSとの戦闘を隠し通せるはずありません。私も情報が送られてきた際多少動揺しました。まあ、絶対者の親族ならあり得ない事もないのかもしれませんが」
分かってはいたがあんな大物が出てきたら隠せる訳もない。
にしても面倒事がどんなものかで俺の選択が決まるな。
「面倒な事とは具体的にどのような事でしょうか」
「そう、ですね。映像を見る限り、柳蒼は自身の能力を制御出来ていないのではないかと言う意見が多く、研究所に移送してはどうかというものがあります」
「なるほど」
SSを屠る程の能力が暴走しているとなれば、恐れるのは無理はないか。
問題はその蒼の弱点を利用しようとしている連中がいるかどうか。その研究所にって言っているのも怪しく感じる。本当はもっと過激な意見もあるだろうが、それはわざとシャルティアさんが言っていないだけだろう。
「蒼にも一応意見は聞きますが、あいつを束縛するような選択肢は全て却下ですね」
「それで他国は納得しませんよ。核兵器を保有しているよりもたちが悪いですからね」
「ならば強引に納得して貰いましょう。少し考えがあるのでお力を借りてもいいですか?」
口角を上げて笑みを浮かべる俺に呆れた表情を浮かべるシャルティアさんは、溜息を零しながらも了承の肯首をしてくれる。
「はぁ、分かりました。まあこれもアラン・バルトが迅速に【世界蛇】を討伐していればここまで大きくならなかった事態。一位も耄碌しましたようですね」
辛辣なお言葉にいつかのおじいさんに同情する。
あの人も頑張ってはいるんだ。【テュポーン】だって討伐したし。
計画の打ち合わせを行い、その日は寝床についた。
◇
「そりゃ呼ばれますよね」
気付けば俺は白い空間に立っている。
この空間だと足は大丈夫なんだななんて思いながら周囲を見回せば、三柱の姿が見えた。
その内の人柱、伝令神が俺に気付き近寄って来る。
「やぁ、久しぶりだね。大馬鹿者君」
「ははっ、なんも言えないですね」
「いや、僕はいいと思うよ。女性の為に全てを懸ける君の雄姿は素晴らしかった。残念ながら一歩実力が伴っていなかったけれどね」
その一歩が遥かに遠いから笑えない。
「彼女に感謝しなよ? 代償がその程度で済んだのは彼女が君の体を僅かに変化させたからだ。それが無ければ五体全てが動かなくなっていたと考えた方がいい」
「マジですか。それはとんでもない借りが出来ましたね」
「元に戻るまでは大体数か月。最速で一か月ってところかな」
その彼女――超越神は戦神相手に腕相撲をしている。
神の恒例行事なのだろうか? いや、よく見ると戦神と勝負しているのは彼女の触手だ。本人は欠伸をしている。
「糞がぁああ!! 何度もやられっかよ!」
「いい加減認めるべき。私に敵う存在などいない」
あれは完全に遊ばれてるな。凄まじい闘気の波動がここまで伝わってくる。
「今回呼んだのは、まあ注意喚起みたいなものだね。神殿を狙っている男とは別の」
「別?」
「あぁ、君がどこまで理解しているかは分からないが、彼女の参戦で他の神達が本格的に動き出した。他の神々がいないのはその動向を探る為に席を離れているのさ。全く、とんでもない方と契約したものだ」
神が動き出した。それが俺にどれだけ影響するかは分からない。ただ、破壊神のような例を考えれば決していいことだけではないはずだ。
「あと数年間も生きてられるでしょうか」
「大丈夫だとも。何せ君は僕達が認めた選定者だ、茨道など逆に燃やし尽くして進みたまえ」
俺のどの部分をそんなにかってくれているのか分からないが、神のお墨付きを貰ったんだ、あまり気負わずにいこうか。
「ん?」
超越神が俺に気付いたようで大きな瞳がこちらを向く。そして腕相撲をしている触手を一気に振り下ろして戦神の手を地面に叩きつける。
「ぬがぁあああ!!」
吹き飛ぶ戦神をスルーして、とことこと音が出そうな走りで俺の元に来ると、ちょいちょいと服を引っ張ってしゃがむように指示する。
「契約者、私は今困っている」
「は、はぁ」
「ん? 契約の内容を忘れた? 貴方は私の平穏を守らなければならない」
そう言えば、俺に力を貸す代わりに平穏を守れと言っていたな。
「忘れていませんよ。俺はなにをすればいいのでしょう」
「あの騒音機の相手を代わりにするといい。実力差の分からないものとの相手は疲れる」
指を指した先は荒れ狂う戦神だった。
・・・・・・マジか。あれの相手をしないといけないのか。
いや、ここでひよってどうする!
この男臭い場所に現れた一輪の花を守る為ならなんてことはない!
「お任せください。全力で止めさせて頂きます!」
「任せる。私は眠る事にする」
「もう一回だぁああああ!!」
「貴方のあいては俺だぁああああ!!」
可愛らしく眠る少女の近くで、むさ苦しい男が戦闘を繰り広げる混沌とした空間の中で伝令神は懐から手帳を取り出す。
「こちらはこちらでなんとかしなくてはいけないね」
そこには、要注意である神々の名が記されていた。
感想の返信は明日に、いやもう今日かw(*´▽`*)





