165話 ガスマスクの不審者
誤字脱字報告感謝です(*´▽`*)
いつになったら誤字がなくなるのやら・・・・・・
「・・・・・・う、ん・・・・・・気を失ってたか」
意識が戻り、周囲を見回すと、傍でシャルティアさんが座っているのが見えた。
看病でもしてくれていたのかと思ったが、ナイフと幾つかの暗器を見るに、そちらの整備をしていたようだ。俺の声が聞こえると、手を止めて状態の確認を問う。
「気が付きましたか。体に異常はありませんか?」
「・・・・・・大丈夫です。お付き合い頂いてありがとうございました」
「意識も数十秒で戻りましたし、かなり頑丈ですね。私は用事がありますので、これで失礼します」
武器を仕舞い、修練場から去るシャルティアさんの背を見届け、先程の組手を思い出す。
「いや、強過ぎかよ?」
なんだあれは。シャルティアさんの能力が転移ではない事は保健室の件で分かったが、明らかに時間を止めているとしか思えない。瞬きもしない間に空中に放り出されていた時は、本当に訳が分からなかった。
流石に時間を止め続ける事は出来ないだろうが、それにしても数秒でも止められるのなら殆んどの勝負がワンサイドゲームだろう。体の強固な怪物なら兎も角、ナイフ一本で仕留められる人間にとってはこれほど恐ろしい能力もない。
これが四位か。
一つしか数値が変わらないというのに、大きな差を感じる。
俺がシャルティアさんに勝てる方法としては、彼女の知覚出来る速度を超えて攻撃するか、時間を止めても大丈夫なように常に防御を固めつつ全体攻撃を連発するか、というのがさっと思いついた対処法だ。
これがもし本気の殺し合いだとすれば、俺が権能を用いていたとしても一度死んでいるだろう。
初見であれに対応しろというのが無理な話だ。
「本気で仲間で良かった。敵だと考えただけでも吐くわ」
余談はここまでで本題だ。
「【憤怒】は人間向きじゃねえな~」
この能力の真価は、元々のポテンシャルが大きい程有用な物となる。
ある程度の力を持った怪物が手にしたらかなり厄介な代物になるだろう。
実感として、十あるものに幾つかの数値をプラスするのではなく、幾つかの数値が掛けられている感じだ。それに、数値に体が適応すると、段階的に掛けられる数値が上がっていくのが分かった。
例としてはレオンさんが一番近いだろう。ただ、こちらにはおそらく倍の上限が存在するという点が違う。つまるところ、単純な戦闘では【獅子宮】の劣化版だという事だ。
(ま、十分だな)
そもそも俺の戦い方は神の権能を軸としたものだ。
【憤怒】単体で戦う事などない。権能の力を微弱でも倍化出来るのだとすれば破格の性能というべきだろう。
「さぁて、今から何するか。そう言えば、盗まれた呪具って・・・・・・ん?」
レオンさんの件を考えようとした時、視界内に明らかにおかしいものが入り込んだ。
修練場の出口の方に目を向けると、松葉杖をついてガスマスクを着けた人間? が立っていた。
シュコーシュコーと音を鳴らしながらこちらを凝視している。正直に言って滅茶苦茶不気味で怖い。いつから本部は悪の組織のような恰好をするようになったのか。
「貴方、誰かしら?」
ガスマスクからくぐもった声がした。
体つきで分かってはいたが、声音から女性である事が分かる。
「え、えと。自分は」
「明らかに不審な人物・・・・・・。そう、貴方は侵入者ねッ!」
「えぇ・・・・・・」
びしっ! と指を指して俺の事を不審だというガスマスクの女性。
この頃自分の常識がおかしいのではないかと思う時があるが、流石に誰がどう見ても彼女の方が不審者だという声の方が大きいと思う。
「ふふっ、大方、能力者の情報データベースを狙ってきたのでしょうけど、残念ね、私に見つかった時点でジ・エンドよ」
せめて自己紹介する時間ぐらいは欲しいのだが、女性の勢いは衰えない。
そもそも、職員にこんな人いたか? ・・・・・・待てよ、もしかして。
「もしかして上月さんですか?」
「ッ?! ふ、ふふっ、やるじゃない。まさか私の情報を既に掴んでいるだなんて」
仲間だから、という発想はなかったようで、逆に警戒心が上がってしまった。
それにしても本当に上月さんだったのか。面白い人だな、妹さんと性格が全然違う。想像では二階堂先生のような人を思い描いていたが、どちらかというとソフィアさんのような緩い雰囲気だ。というかもう動いても大丈夫なのだろうか? 後で金剛さんに連絡だけしておこうか。
「まだ学生のような見た目だったから侮っていたわ。本気で相手してあげるッ! 安心しなさい。殺しはしないから。捕まえた後でカツ丼を用意してあげるからちゃんと自白するのよッ!」
エンジン全開、最早ブレーキが壊れているぐらいだ。
遠い目をしながらどうしようかと考えていると、上階から勢いよく下って来る人の足音と声が聞こえた。
「なあにやってるんすかぁぁああああああっ!!」
勢いよく扉が開き、修練場の出口付近に立っていた上月さんに人影が飛びつく。
明るいサイドテールを見れば、それが服部さんである事に気付く。
「鈴奈ちゃん離してっ! 目の前の侵入者が見えないの?! 私は五年分のなでなでを金剛君に所望する為に、侵入者を確保しなくちゃいけないの!」
「上月先輩こそ目の前の人物が見えないんすかっ! 写真で見せたじゃないっすか! ここで捕まえたら逆に大目玉くらうっすよ!」
上月さんの動きがピタリと止まる。
「・・・・・・えっと、写真もう一回見せて貰える?」
「ふぇっ?! い、いいっすけど」
服部さんが懐からスマホを取り出し、二人とも俺から背を向ける形で画面を見る。
上月さんは画面と俺とをちらちらと見た後、コホンと咳払いし、ガスマスクを外す。明らかとなった顔に妹さんの姿を重ねる。
(おぉ、確かに妹さんの面影があるな。目つきが若干和らかい)
上月さんは何度か頷いた後、こちらに近寄って来る。
「初めまして柳君。私の名前は上月香織よ。初対面という事だからちょっとお茶目なサプライズとして演技していたの」
という事にして欲しいらしい。
瞳を見れば「金剛君には内緒にして!」と訴えていた。
「こちらこそ初めまして。一応絶対者ですが、気にせずに接して頂けるとありがたいです」
ぎこちない笑みを浮かべ合って挨拶を交わす。
服部さんはジト目で上月さんを見つめて溜息を吐いているが、どことなく嬉しそうな感情も見えた。
死んだと思っていた先輩と再び話せるのだから、たとえ表情で表さずとも、嬉しくない筈がないのだ。
「柳君はここでなにしてたんすか? 結構大きな音が聞こえてきましたし、修練場も大分荒れてるっすけど」
周囲を見渡せば、確かにかなりの被害が出ているのに気付く。
地面のクレーターは俺が撃墜された時のもので、壁の亀裂は俺の攻撃だな。後で修繕しておこう。
「ちょっと組手をしてまして。もうお相手は帰りましたけど」
「む~ 私を呼んでくれればいつでも組手ぐらいやるっすよ?」
「あはは、じゃあ次回はお願いしますね」
「約束っすよ!」
忙しいと思って声を掛けなかったが、服部さんも相当に強い。組手の相手としては十分だろう。
「その歳で絶対者になるって凄いわね~ ただ、無理しちゃ駄目よ。大事な人を泣かせる事になるからね」
実際に泣かせたであろう上月さんの言葉は説得力抜群だ。自分で言いながら若干しょんぼりしている。
「あっ! 次の組手は私もお邪魔しようかしら。五年も能力を使っていないと感覚が衰えるもの。早めに訓練はした方がいいわよね」
俺としては別に構わないが、上月さんも戦闘系の能力なのか。
なんというか、戦闘を生業とする者特有の覇気のようなものが一切感じられない。ただただ暖かく友好的なオーラと言えばいいのだろうか。どうしてもこの人が怪物を討伐するような強者には思えなかった。
「あら? もしかして私の力を疑っているのかしら?」
「まぁ、上月先輩は強そうには見えないっすから」
「もう! これでもそれなりに強いのよ。なにせ私は絶対者に最も近い序列なんですもの」
そういえばそうだ。忘れていたが、この人の序列は十位。
絶対者を除けば世界最強の能力者であるという事だ。
「むふ~」
・・・・・・どや顔をしている恰好からは想像できないが。
告知、来週の土曜から新作【終焉都市の雑草】の投稿を開始予定。
内容はファンタジーで主人公成長ものですかね(*´▽`*)





