158話 終結、そして新たな始まり
その後の話をしよう。
まず、俺達が侵入した結界についてだが、太陽神が完全に掌握した為、俺の方で簡単に解除する事が出来た。
解除した瞬間道路などに出た場合を考慮して、いつでも対処できる準備だけは整えていたが、俺達が出た場所は、少し大きな公園の広場だった。
見渡すと、近くには居なかったはずの人達がいる事に気付く。
どうやら学校の関係者、主に俺と同じ班の人達も巻き込まれていたようで、体をびしょ濡れにした状態で広場に立っていた。中でも桐坂先輩が死にそうな目で俺を見ているのが怖かった。
「後輩・・・・・・分かっているのです。強敵だったのですよね? あれぐらいしないと勝てない相手だったのですよね? ただ、それでも、萌香は心が小さいので怒りをぶつけたくなってしまうのです。大丈夫、後でちゃんと治療してあげるのです」
ぶちぎれた先輩があそこまで恐ろしいのは予想外だった。
何があったのか詳細は語らないが、俺は股間を抑えながら地面に沈んだとここに記しておく。先輩の近くにいたずぶ濡れの女性たちに助けを求めたが、誰も俺の事を助けてくれなかった。解せぬ。
それからは、元々の来た理由であった救急隊の任務の同行から外れ、俺は別の行動に移す。
とりあえず被害者達を即座に病院に搬送した。
それで帰りたいところだったが、まだ事件が完全に解決したわけではない。
「柳君、これだ・・・・・・」
南さんにお願いして、ある資料を渡してもらう。恋人の傍に居たいだろうに悪い事をしてしまった。
この資料は、南さんが長い時間をかけて調べた裏切り者に関する資料だ。
ざっと見た感じだと、南さんが言っていた裏の人間、そして数人の政治家に権力のある活動家といったところか。
特殊対策部隊の上層部がいなかったことに安堵すべきか、下の管理が出来ていない事に文句を言えばいいのか。
「どうも、ありがとうございます。後は任せて下さい」
権力を持った連中の行動は面倒の一言に尽きる。
こいつらが裁かれるのにどれだけの年月が掛かるか、数名は海外に高飛びしようとするだろう。そしてそれを止めれるのは一部を置いて存在しない。
金剛さん達でも無理だ。
法外の存在である俺でなければ。
(後で他の絶対者に報告だけはしとかないとな)
証拠があると言っても、正規の手順ではない方法で暴れる訳だからな。
内容が内容の為、後でなにか言われることはないとは思うが、一応という奴だ。
「本当に、本当にありがとう! 君の事は、絶対に忘れない!」
後方で涙声で叫ぶ南さんに手だけ振って別れる。
恋人をあれだけ想える人だ、末永く爆は・・・・・・コホン、幸せになって貰いたいものだ。
◇
隼人の住まう地域にある小さな神社。
畳の上で、狐の耳を生やした女性がお茶を啜る。
一息つくと、目の前で微笑を浮かべている訪問客に声を掛ける。
「なにしに、来たの・・・・・・?」
「あら、理由なんて必要あります? 私達の仲ではありませんか」
狐耳の女性――暁は、目の前の女性と自分との仲を考えるが、それ程深い交流があった訳ではないと首を傾げる。
「全く、冗談ですわよ。ただの挨拶です。期間はどれ程かは分かりませんが、ここでしばらく暮らす事にしました」
「え・・・・・・いやだ」
思わず声が漏れ出す。
暁の機嫌を表すように耳がシュンと垂れる。
「あら? 私、貴女に嫌われるような事をしましたっけ?」
「・・・・・・だって、私の秘密を知ってて・・・・・・やりづらい、から」
「別によいではありませんか。意中の男性の前であの姿を見せればイチコロかもしれませんよ。ふふっ、淫乱狐さん」
「ッ?!」
意地の悪い微笑を浮かべる赤いドレスを着た女性の言葉に、暁は顔を真っ赤に染め上げて、声にならない音を発して悶絶する。隼人がこの場にいたならどういう事なのか詳しく聞いていただろう。
「本当に、嫌いッ!」
「あらあら、それは残念です。私は貴女の事が好きなのですが」
「早く、帰って!」
「ふふっ、それではお暇しましょうか。なにか困り事があったら手伝いますので、遠慮なく仰って下さいね?」
女性の言葉など聞かないと、暁はそっぽを向いて頬を膨らませる。
その微笑ましい姿に、思わず漏れそうになる笑い声を抑え、赤いドレスを着た女性は神社を後にする。
「挨拶も終わりましたし、そろそろ会いに行きましょうか。今回は以前とは違うでしょうね」
◇
日の光の遮られた裏路地。
サングラスを身に着けた大男、元絶対者のユリウスが壁に背を預け空を見上げていた。
「さぁて、一体どうしたものか」
頭を掻きながら、隼人をどうしようかと考える。
ユリウスは場面を伺ってはいるが、以前とは違い、隼人の近くにはシャルティアとソフィアの姿があった。始めて見た時は、見間違いかと自身の目を疑ったほどだ。
「ソフィアでもヤバいってのに、シャルティアまでいるとか・・・・・・爺さんは俺を脅威として認識し過ぎじゃねえか?」
ユリウスは正確に二人の恐ろしさを知る数少ない人物の一人だ。
その為、絶対に、中でもシャルティアと戦うのだけは避けたかった。
(時間を止めるとか、厄介ってレベルじゃねえぞ)
シャルティア・エードルンド、彼女の能力は【時計塔】。
時間を操作する能力だ。能力の詳細については、シャルティア本人しか知らず、ユリウスも大方の推察しか出来ない。
しかし、片手で数えるほどの共闘の中で、明らかに時間を止めているとしか思えない場面があった。隣に居ればこれ程頼りになる存在もいないが、敵として遭遇したならば、絶望という一言では済まされないだろう。
「幾ら因果律を弄れるつってもなあ、可能性が存在しねえもんは弄れねえしどうしたもんか・・・・・・はぁ~ ん?」
溜息を吐いていると、路地裏から女性の悲鳴が聞こえて来る。
もう一度溜息を吐き、ユリウスは迷いのない足取りで声のする方へと移動する。
そして案の定というか、ユリウスが予想して通り、そこには女性に乱暴しようとしている三人の男達の姿があった。
女性の服ははだけ、今にも良くない事がおっぱじまりそうな場面である。
「はぁ、めんどくせえ」
「ッ?! あ? なんだよおっさん! 殺されてえのか!」
白けた視線でその光景を見つめるユリウスが零した声に、全員が驚き肩を揺らし背後を振り向く。そしてユリウスが一人だけだと分かると、安堵の息を漏らし、近くにあるナイフを手に取ってユリウスに近づく。
「ったく、察だと思ってビビったじゃねえか、あ゛ぁん? てめえぶっこ――」
言葉は最後まで続かなかった。
ユリウスは近づく男の顔を鷲掴みにすると、横に聳えているコンクリートの壁に勢いよくぶつける。
一撃で頭部は粉砕し、大量の血が飛び散った。
誰が見ても、頭部を破壊された男は即死である事が分かる。
一瞬の静寂を置いて、
「う、うぉおおおおお!!」
訳も分からず、困惑しながらももう一人の男がユリウスに鉄パイプで殴り掛かる。
ユリウスは左手で鉄パイプを握ると、強引に手前に引いて先端の部分を男の心臓部分に突き刺した。
「く、来るなぁああ?! この女がどうなっても知らないぞッ?!」
最後の一人は錯乱して悲鳴を上げながら、ナイフを女性の首元に突きつける。
女性はというと、余りにも悲惨な現場を見たせいか、気を失っていた。
「やれよ」
「は?」
「やれるものならやってみろって言ってるんだ」
「お、俺は本気でッ!」
身を乗り出そうとした男の態勢が崩れる。
地面に垂れている血で滑り前面に体が傾いたのだ。左手では女を抱え、右手でナイフを持っている状態では受け身を取る事は出来なかった。
しかし、反射的に右手を前に出してしまう。
ナイフの先端は、男の顔を向いていた。
「・・・・・・え?」
そんな声を残し、ナイフは男の頭を串刺しにし、他の二名同様に即死した。
ユリウスは男達のポケットからスマホを取り出すと、警察と救急車に連絡を取る。
「・・・・・・はぁ、本当に、なにをやっているのかね、俺は」
◇
特殊対策部隊が利用している治療院。
そのベッドの上で、一人の女性が体を起こしていた。
「そう、そんな事があったの」
喋っている女性の周囲には、誰の姿もない。
傍から見れば、女性は一人で虚空に喋りかけているようにしか見えなかった。
「五年、五年もか・・・・・・会いたいな」
儚げな表情で、女性は恋人の顔を思い浮かべる。
「あっ、でも、怒られるのはちょっと怖いな。一杯心配をかけたでしょうし、凄く怒るわ。どうしようかしら」
微笑を浮かべたかと思えば、今度はあわあわと焦った表情で顔を右往左往させる。
そんな彼女を、精霊達が慰めるようにキラキラと光り出す。
「ふふっ、ごめんなさい。私は大丈夫よ。金剛君もきっと、絶対に・・・・・・そんなには怒らないと思うから」
最後は少し不安そうにそう言う。
「しかし、五年も体を動かさなかったものだから、相当筋肉が落ちてるみたい。一日でなんとかなるかしら?」
何を言っているんだと慌てる精霊達を置いて、彼女――上月 香織は体をふんふんと動かし始める。
その後、香織が起きている事に気付いた看護師が、悲鳴を上げながら香織の奇行を止めさせた。
十章、了。
次章予告。第十一章、【暴食編】。
ついに、か・・・・・・(; ・`д・´)





