156話 しゃれにならん
おおぅ、結構伸びちまった('Д')
俺と同じ姿をした敵。
纏う闘気は戦神のものか。
「ドッペルゲンガーか。吸血鬼の陰にでも潜んでいたか」
【ドッペルゲンガー】、その目で視認した対象に変身し、同様の能力を扱う事の出来る怪物。
ただ、怪物自身のスペック以上の存在に姿を変える事は出来ない、はずだが・・・・・・
(こいつが俺と同等以上のスペックだと?)
Sランクの域を出ていない奴が俺に変身できる訳が無いのだが。
考えられる可能性とすれば、こいつはただのドッペルゲンガーではなく、変異種の場合か。
睨み合っている俺達の横から、船からの大砲が放たれる。
狙い違わず怪物に着弾。激しく海面が揺れ飛沫が散る。
「・・・・・・成程、ただのハリボテではないか」
スコールが消えた先では、無傷の怪物が今も尚俺にだけ視線を向けている。
つまり、他の全てを敵だとすら認知していないという事だ。
翼を広げ空へと飛び上がると、そのまま怪物目指し滑空し、大剣を振り下ろす。
敵は回避の動作を見せず、右足を滑らせるように後ろに送ると、右腕を引いて振り下ろされる大剣に合わせて拳を振るう。
両者の攻防は、僅かにだが俺の方が威力は勝った。
防ぎきれなかった衝撃で後方に吹き飛ぶ怪物を、翼を広げ、空を飛翔する事で追いかける。
宙に放り出されている形の怪物目掛け、大剣を横一線に振り抜く。
「ッ?!」
が、明らかに死角であったその攻撃を、更に宙で回転する事で紙一重の回避を見せる。
(誘われた!)
大剣を振り抜いた状態でほんの僅かの隙を出した俺の眼前で、奴は口を開く。
『位階上昇――滅亡の時だ、太陽神』
視界が爆ぜた。
身を焦がす熱気に顔を歪め、次いで、凄まじい衝撃を受けて勢いよく海に叩きつけられる。
「がはッ!」
あまりの衝撃に肺の空気を吐き出す。
【大天使】の治癒能力で体を癒すと、襲い掛かる炎の槍から逃れるように空へと飛翔し、敵の姿を視認する。
自身の肉体から炎を燃え滾らせ、その背後には六つの炎腕が浮遊している。
その姿は間違いなく、太陽神の位階上昇時の俺の姿そのものだ。
「これは・・・・・・全ての権能が使えると考えた方がいいな」
対面して分かる。
俺という存在の厄介さが。俺に対しての有効手段というのが存在しない。
今の俺の気分は、味方だと弱いのに敵になるといきなり強くなる味方キャラを相手にしている感じだ。
金剛さんへと目を向ける。
囚われていた被害者達や南さんも同様の場所で障壁の保護を受けている様だ。
(金剛さんの障壁があれば、太陽神の範囲攻撃による即死は免れるか)
一先ずの安心は出来るが、どっち道俺がこいつを倒せなければ。
「仕方ない」
左指を弾く。
それに伴い、海が、船が、その姿を消していく。
『最後までやりたかったんだがな。しゃあねえ、また呼んでくれや!』
『死ぬんじゃねえぞ、選定者!』
『女泣かすんじゃねえぞ!』
最後まで五月蠅い人達だが、彼等の働きに感謝を示し、薄れゆく姿に軽く一礼した。
伝令神の能力を解除した空きが一つできた。ただ、時間はない。彼等が消えた事で、【大天使】の圧倒的な力が徐々に失われていくのを感じる。
「速攻で決める。位階上昇――荒れ狂え、英雄神」
暴風が吹き荒れる。
今回は周囲の被害を抑える為に洪水は使わない。悪風のみで敵を殲滅する。
手を開閉し調子を確かめると、翼をはためかせ敵へと突っ込む。
『燃え尽きろ』
「消し飛べ」
空間一面を覆う灼熱の嵐を強引に風で吹き飛ばす。
熱風が肌を焦がすのも構わず炎の中を突き進むと、その先にいた敵の顔を右手で鷲掴みにし、左手に持っている大剣を一閃する。
二つに両断された敵は血を撒き散らすことなく炎に巻かれて消滅する。
(分身か)
本体は背後。振り返ると、六の炎腕がこちらに手を向けている。
『終焉の焔』
漆黒の炎が炎腕から放たれる。
ほぼ零距離からの攻撃に回避は間に合わない。大剣の刃の部分で防御し幾分かの炎を防ぐが、余波で頬や足が焼ける。
(流石に熱いな)
治癒能力を全開にしてようやく耐えているが、それも時間の問題だな。
「しゃあない。金剛さん! 一撃全力で耐えて下さい!」
声を張り上げ後方に警告を発する。
神気を爆発的に増幅させ、悪風と融合させてを大剣の刃に流す。
「合技――」
漆黒の炎に蝕まれるのも構わず、大剣を頭上に持ち上げ、上段の構えを取る。
「無情の神風」
そして、振り下ろす。
空間を走る斬撃が暴風の軌跡を残し、辺りを無慈悲に破壊しながら突き進む。斬撃を防がんと六つの炎腕が斬撃を受けるが、そんなもので止まる訳もない。
全ての炎腕を消し飛ばし、怪物本体の体を縦に切り裂く。
両断するには至らなかったが、血を噴き出し、深い傷を残した。
「まだ終わってねえぞ」
一息で怪物との距離を詰め、大剣を左から右へと一閃。
敵は即座に生み出した炎腕で防ぐが、そこに衝撃はない。
(トリッキーな動きには対処できていないな)
大剣はブラフ、ただその場に置いただけだ。
俺はそのまま大剣を振り抜いた勢いで一回転すると、右手の裏拳を奴の顔に叩きつける。猛烈な勢いで吹き飛んでいく敵を尻目に、もう半回転し落下しつつある大剣の柄を掴み取ると、吹き飛んだ敵の地点へと全力で投擲した。
地面に激突した敵が砂塵を巻き起こし、その中に吸い込まれるように大剣が突き進む。
次に聞こえてきたのは、ギインという金属同士がぶつかり合った鋭い音だ。直後、大剣が砂塵から飛び出し、俺の元に帰ってくる。片手で掴み取ると、砂塵へと視線をずらす。
『位階上昇――舞い踊れ、武御雷』
砂塵が紫電によって吹き飛ばされる。
砂塵が晴れた先には、二刀の刀を腰に携え、その内の一刀――千鳥の柄の部分に右手を添え、抜刀の構えを取る姿があった。
『雷切』
抜刀の一閃。
超速の斬撃が戦場を駆ける。射線上に金剛さん達がいない事を確認すると、大剣を下から振り上げ雷切を両断する。
再び大剣を構え敵をみる。その姿がぶれた。
次に現れたのは俺の眼前、宙で抜刀の構えを取っている。
(足場の有利を捨てた? 一体なにを考え――)
「模倣――」
悪寒が背筋に走る。
その可能性は低いだろうが考慮はしていた。
俺の使用できる能力は二つ、【超越者】と【大天使】だ。権能に留まらず、俺と同様に【大天使】の能力を使えるのではないかと。
しかし、この数分の戦闘で能力を発動する兆しが無かった為、二つを扱う事は出来ないのだと判断した。
それがもし違って、元から【大天使】を使えない事には違いないが、異なるものなら使えるのであったのであればどうだ。よく見れば、奴の怪我が既に消えている。【大天使】の治癒でなければ、武御雷の権能を使用した状態で回復できる手は一つ。
ああ、その能力は悪そのもの、怪物にはぴったりではないか。
「加速」
目の端で光が駆けた。
俺に出来たのは首を僅かに傾ける事のみ。
頭上で俺の左腕が回転しながら宙を舞う。
振り向いた先には刀を納刀した怪物の姿。
その足元を凝視すれば、薄い糸が存在している。
間違いない、あれは天網久遠だ。そして先ほどの能力は服部さんのもの。
つまり、
「【魔王】かッ」
再び奴の姿が消える。
腕を再生している暇すら無い。
武御雷の圧倒的な速度を更に加速しているのだ。目で追える限界も近い。
「くっそ、しゃれにならんッ!」
こちらが大剣を振ろうと、圧倒的に速度が足りていない。
脳の処理速度すら加速している敵には、例え俺が同速度で動けたとしても攻撃は通らないだろう。
「ぶッ?!」
大剣を弾かれ、一瞬前面が空いた俺の腹部に回し蹴りが叩き込まれる。
どれ程の勢いで吹き飛ばされたのか、地面に衝突すると、巨大なクレーターを作り出した。
「かはっぐっ・・・・・・ぷっ」
咳込みながら四つん這いになり、喉からせりあがる血を吐き出す。
『雷切』
「危ッ・・・・・・ッ!」
寸での瞬間で斬撃を回避するも、背後に人の気配を感じ勢いよく振り返る。
死線の先には、金剛さん達の姿があった。十三枚の障壁を展開してはいるが、今の奴の攻撃を防ぎきれるかは分からない。
「間に合わないッ!」
全力で駆けだすが、どうしても奴の攻撃の方が速い。
雷切が金剛さんの障壁と衝突した。
「ぐッ!・・・・・・なんという威力だ?!」
十枚の障壁が一瞬にして切り裂かれる。直ぐに残りの障壁も破壊され、残り一枚となった時、戦場に似つかわしくない穏やかな声が響く。
「うわぉ、隼人君怪我してるけど大丈夫~」
ぴちゅんっ、まさにそんな軽い音だった。
障壁を破壊する寸前であった雷の斬撃が跡形もなく消える。
金剛さんの背後から目を擦りながら一人の女性が姿を現す。
海のように青い髪に二つの核兵器を備えた女性。忘れる事など出来る訳もない俺が初めてナンパした人。
絶対者、ソフィア・アンティラがそこに立っていた。
「つらいならボクが手伝ってあげようか~」
「は、はは・・・・・・」
彼女の姿を見て、心の底から安心感が湧いてくる。
全く、お姫様を救う英雄のような登場だ。
それに比べ俺ときたら地面に這いつくばっているときた。
(おいおい、魅力的な女性の前でこんな姿見せてていい訳がねえだろ!)
笑う膝を強引に黙らせて、堂々と胸を張ると、後方に背を向けて敵を見据える。
「いえ、俺一人で十分です。ソフィアさんは皆さんを保護していて下さい。余波が来ると思いますので」
「分かったよ~ でも危なそうだったらボクも参戦するからね?」
あまり戦力を信じられてなさそうだ。
・・・・・・いいだろう。ここでソフィアさんの判定を覆そうじゃないか。
(3分です。それで決めて下さい)
魂の繋がる先に呼びかける。
相手は傲慢に嗤うと、悠然と椅子から立ち上がる。
戦場を紫電が駆ける。
その速度は最早生物の出せる速度を超えている。Aランクの怪物であろうと、その速度で移動すれば四散するであろうが、奴が五体満足なのは権能のおかげだろう。
視界の先の紫電が消え、次に現れたのは俺の真下。
既に抜刀された千鳥が俺の首を両断するように添えられていた。
俺は体を動かさない。
否、動かせない。既に俺の制御を離れているから。死を目の前にして再生した腕を尊大に組んで、迫る刃を眺めている。
振り抜かれる刀。
一瞬の静寂が訪れる。
後方のソフィアさんもまさか俺が何もしないとは思わなかったのか、息を呑んでいるのが分かった。
しかし、それは無用な心配である。
カランッと何かが地面に落ちた。
『・・・・・・』
何が起きているのか分からなかったのだろう。
加速を止めて怪物が硬直している。奴の目先には、地面に落ちた千鳥の欠片があった。
その断面は赤く熱されたように熔解している。
「困ったな、二分五十秒の暇をどう潰したものか」
怪物を見下ろしながら、俺の体に憑依した存在が嗤う。
――ここに、太陽神が舞い降りた。
太陽『一秒やるだけでも光栄だろう?』( ・´ー・`)





