155話 海面を走るモノ
「ぷはぁっ! もうっ! 一体なんなのですか!」
さっきからおかしなことばかりなのです。
突然海が押し寄せてきたり、凄く大きな巨人が出たり、空間全体が輝きだしたりと訳が分からないのです!
「うぅ、萌香はあまり泳ぎが得意ではないのですけど」
「なら私の背中に掴まればいいのに~」
「それはダメなのです! サポートが邪魔をすることはありえないのです!」
「固いな~」
西連寺先輩が優しく手を差し伸べてくれる。
けれど、萌香の仕事は皆さんのサポートなのです! 少しでも手を煩わせて危険に晒す事は出来ないのです!
ぐぅっ・・・・・・でも、流石に少しキツイのです。
萌香は皆さんと違って戦闘はからきしなので、その分運動する事もあまりなかったですから、いきなり水泳は死んでしまうかもしれないのです。
「一体、なにが起きてるんでしょうか?」
「う~ん、多分だけど、彼がはっちゃけてるんじゃないかしら」
巻き込まれた学校の生徒、確か七瀬さんだったでしょうか?
彼女に吉良坂先輩が答えるように、この事態は後輩が起こしていると萌香も思うのです。後輩は大陸を沈めた前科がありますから、疑われて当然なのです。
「ぷはぁ! 帰ったら、先輩パンチを喰らわせてやるのです!」
まあ、後輩がここまでしなければ倒せない敵だという可能性もあるので、話を聞いてからの判断にはなるのですが。その場合はドーナツでも奢ってもらうのです。
「加藤君、この状況を打開する策とかないかしら?」
「いやいや無理言わないで下さいよ。普通の状況なら兎も角、こんなイレギュラーは対応外ですって」
「まあ、そうよね・・・・・・」
この二人は救急隊の隊員だとか。
なにも知らされず巻き込まれたのだから可哀そうな人達なのです。
もっとも可哀そうなのは学生の方々になるのですが。
機密事項ではありますが、お友達には少しぐらいなにか言ってもいいと思うのです。後輩はそこら辺ちゃんとしているので逆に腹が立ってくるのです。
ここから出たら彼女達の分まで後輩をボコボコにしてやるのですよ!
最近分かった事なのですが、男性には急所があるらしく、偶々お父さんの急所に椅子が当たった時はそれはもう凄い顔をしていたのです。
後輩にも同じ苦痛を与えてやるのです!
これからのプランを練っていると、後方から妙な音が聞こえてきました。
「一体なんの・・・・・・ほわぁああああ?!」
なんの音かと振り向くと、目にしたそれに驚きの余り凄い声が漏れてしまったのです。
なにせ――海の上を列車が走っていたのですから。
他の人達も目を点にしていて、口を半開きにしているのです。
目を凝らしてよく見ると、海面に次々と線路が生成されてその上を走っているのが見えます。
無から生成している? あの速度で生成し続けているのであればかなり高ランクの怪物だと考えざるおえないのです。
「あらあら。麗華ちゃん、いけるかしら」
「うちは大丈夫~ でも涼子っちはマズイんじゃない? 海だと刀振りにくいでしょ?」
「そこはまあ、なんとかするわ」
苦笑しながら涼子先輩が言う。
確かに、先輩の能力であれば突撃を喰らう事はなさそうですが、もしもがあるかもしれません。その時に備えて萌香も準備です。
「あの、私は遠距離攻撃できる能力を持っているのですが、ここから攻撃してみてもよろしいでしょうか?」
「う~ん、いいわよ。遠慮なくやって頂戴」
吉良坂先輩の許可を得るや、七瀬さんが能力を発動させます。
彼女の前に現れたのは黄金の弓。左手で掴み取り、狙いを怪物へと定めます。その姿は本当に綺麗で、戦場だというのに思わず見とれてしまったのです。
「穿て、人馬宮ッ!」
海の中という不安定な足場の中、七瀬さんの放った矢は一直線に怪物へと海面を割りながら突き進みます。その技量に本当に学生なのかと疑ってしまうのです。
(服部先輩と後輩だけだと思ってましたが、どこにでも天才というのは居るものなのですね。でも・・・・・・)
迫る矢を前に、電車の姿をした怪物はその様相を変えます。
前面の装甲が歪み、狼のような長い大きな口が開く。その虚構に吸い込まれるように矢が消えていくと、何事もなかったように口が閉じられました。
◇
(まあ、そうよね)
彼女の攻撃が通用しないのは想定内だ。
今のは相手の力量を計る為に撃って貰った一矢。
Bランクの怪物を屠るだけの威力を秘めた攻撃を喰らったという事は、敵はおそらくAランク以上、最悪はSランクの可能性もありうる。おそらくとは言っているが、私の勘ではほぼ確実にSランクであると確定付けているが。
背後の学生を見やる。
私達の手でも余る強敵だ、この場に居れば高確率で彼女達は命を落とすだろう。
「皆さんは下がっていて下さい。ヘイトが向くと危ないから七瀬さんも攻撃しちゃ駄目よ」
「は、はい・・・・・・。すいません、お役に立てず」
「そんな事気にしなくていいのよ。今は、私達に任せて」
表情を暗くし、消沈する彼女に慰めの声を掛ける。
彼女の歳で考えたら、これだけの力を持っていたら及第点どころか満点を上げてもいいぐらいだ。私が彼女と同年代の頃は能力もまともに使えず、無能もいいところだった。
「涼子っち、そろそろまずいけど」
麗華ちゃんの言う通り、敵は猛スピードでこちらに迫ってきている。
もう二、三十秒もすればこちらに追いつくだろう。
「そうね。じゃ、お願い」
「はいよ~」
左手を出すと、麗華ちゃんが握って能力を発動する。
麗華ちゃんの転移能力は、一度訪れた場所と視界内の場所には何処であろうと転移出来る。
(学生を元の世界に戻さなかったのは、ここで何かを感じ取って欲しかったのかも)
そんな事を思いながら、眼前の敵を睥睨する。
彼女が転移した場所は、敵の数十メートル先の地点。
数秒と掛からず敵が迫るその場所で、宙に放り出される形で私は転移した。
じゃあ、と軽い笑みを浮かべ再度転移し場所を離れる麗華ちゃんと、私を粉砕せんと迫る敵を尻目に、私も自身の能力を発動する。
「【物質透過】」
私の体を敵がすり抜ける。
【物質透過】、その名の通り物質を透過させる能力だ。
壁をすり抜ける事や、攻撃を完全に無効化する事も可能という、一見万能に見える能力ではある。が、実体化しなければ攻撃も出来ない為、かなりの練度を必要とする能力だ。
この特性故に、慣れるまで二十年以上も掛かってしまった。
(私の性格そっくりの能力ね)
怪物の頭部にある気色の悪い細胞のような空間を抜けると、空洞の空間が現れる。
正確に言えば、列車にある座席と、数体の怪物が存在してはいるが、刀を振れるだけのスペースがある空間にでた。
敵が数百キロのスピードで通過する刹那。
刀と腕のみを実体化させ、瞬時に抜刀する。
怪物の体を切り裂く感覚が腕を伝い、振り抜く瞬間、列車の最後尾にて、再び刀と腕を透過させ、扉との衝突を避ける。
能力を使いこなす為、鍛錬では牙城君の放つ弾丸を斬ってきたのだ。
この程度の速度で見切りが出来ないなんて事はない。
『キボォィアアアア!!』
背後で奇怪な悲鳴を聞きながら、海に着水する。
どうやら効果はあったようだ。振り返ると、列車が暴れ回るようにして海面を走り周っている。
しかし、数秒経つと、列車は進路を変えて私の方へと向き直ると、怒りを表すようにして今までにない速度で襲い掛かる。ただ、若干動きがおかしいように見える。僅かに制限が掛かっているような不自然な動きだ。
(救急隊の二人? それとも・・・・・・)
一度、先生と言われている女性の方へ視線を向けるが、ここからでは彼女が能力を発動しているかは分からない。
まあ、どちらにせよこちらに害はない。今は目の前の敵に集中しましょうか。
「私の集中が切れるか、あなたの再生が追い付かなくなるかの勝負ってとこかしら」
心臓部のような場所があればいいのだが、一度見た限りではそのようなものは見当たらなかった。一定以上破壊しなければ死なないか、何処ぞにある心臓部を破壊しなければいけないのか。どちらにせよ、私の斬撃とはあまり相性がよろしくない。
「他の隊員待ちかしら、牙城君か金剛さんなら・・・・・・」
遠くの城に居るのだろうかと目を向けた時、凄まじい轟音と共に、天を衝く程の巨人が大きく後退した姿を見た。
緊急があり、遅れて申し訳ないです。
実は祖父が入院しまして、左目が失明してしまったらしく・・・・・・
本人はあまり気にしていないようでしたが、かなり心配です(´;ω;`)





