150話 ロンド
やっと厄介なことが終わりました(´;ω;`)
結構時間が取れたので次話は明後日には上げられるかな(*´▽`*)
待っていた皆さまには感謝しかございませぬ! ありがとうございます!
牙城先輩が離れるのを確認すると、二本の短剣を構えて敵を睥睨する。
体長は私よりも少し低い、ただ、鎌鼬の周囲は風が靡き、竹林の葉が振れただけで切り裂かれているのが見えた。
先程のBランク級の怪物を一撃で屠った威力から、正面で受けるのは止めた方がよさそうだ。短剣で流しながら側面から攻撃を仕掛けるのが得策だろう。
【鎌鼬】が右足を僅かに後ろにずらす。
(――来る)
察するのとほぼ同時に私と【鎌鼬】が地を蹴り相対する。
ギィンと互いの刃が交差すると、火花が散り、周囲の竹林が余波で切り裂かれた。
敵とは背を向ける形で一旦停止すると、自分の頬から垂れ落ちる血を拭い取る。
(速い、今の私よりも数段は上っすかね。ただ、技術はおそまつっすね。簡単に受け流す事ができる)
こんな場所で引き籠っているからか、強敵との戦闘経験がないのかもしれない。
後方で地が爆ぜる音が聞こえる。
瞬時に振り返るが、そこには【鎌鼬】の姿はない。
殺気を感じ、咄嗟に背中を沿って上体を倒すと、眼前を【鎌鼬】の刃が眼前をすれすれで通り過ぎる。
宙で停止した刃が、反射するように角度を変えて私に迫るが、寸前で【鎌鼬】が私から飛び下がる。
瞬刻まで【鎌鼬】がいた場所を弾丸が通り過ぎた。
いや、通り過ぎるはずの弾丸が、ありえない動きをしながら再度敵に迫る。
「ナイスフォローっす!」
これは牙城先輩の能力【黒点掌握】の特性だ。
己が狙いを定めた場所に必ず弾丸が当たるという必中の能力。
対処法は牙城先輩の迎撃するのみである。回避という選択肢が存在しない厄介な能力だ。
とはいえ、相手はSランク。
残念ながら、腕を振り上げ広がった風のウェーブのみで弾丸が消されてしまう。
「ありゃ、残念」
しかし、敵の動きが分かったのは大きい。
あの速度であれば不可能であると思ったが、どうやら敵は周囲の竹林を足場にして縦横無尽に動き回るスタイルのようだ。
「ふぅ」
作戦変更。
今は速度勝負はお預けにしよう。
足を止めて、静かに正面を見据える。
見えるものに集中したら敵の思う壺だ。
【鎌鼬】が飛び上がり、竹林を足場に疾走する。
やはり速い。他の隊員ならこの速度に反応できないだろう。
「私が相手で良かったっす」
背から振られる一刀を、左足を軸に体を回転させる事で回避する。
円を描くように短剣を一閃させるが、敵の速度に届かず回避され、再度疾走が始まる。
徐々に、徐々に自身を加速させていく。
無理矢理に速度を引き上げることも出来るが、その後の戦闘に差し支える程のダメージも同時に負ってしまう。
誰かさんのおかげで今の私は、そんな賭けはしない。
「ふッ!」
敵の攻撃を受け流し、時に反撃する。
地を滑り、体を動かす感覚はさながら舞踏会で踊っている気分だ。
パンッ! パンッ!
宙を駆ける弾丸が二発。
疾走する【鎌鼬】を追従する。牙城先輩の攻撃を脅威とは感じていないのか、目を向ける事も無く風を操り、容易に切り裂く。
(なるほど、そういうことっすか)
どうやら牙城先輩は下準備を完成させたらしい。
丁度いい。こちらもようやくだ。
じゃあ、速度勝負を始めよう。
地を蹴り、一息で【鎌鼬】へと追い付く。
見開かれた両目がこちらを見据えている。今まで自分よりも速い存在を相手にしたことがないのだろう。その動揺が命取りになる。
「朧月」
【鎌鼬】を囲むように三人の私が短刀を振るう。
二人は幻覚だと判断したのだろう。初めにいた左隣の私の攻撃を防ぐが、後方の二人の私が【鎌鼬】の背を切り裂く。
耳を劈くような悲鳴が周囲に響き渡る。
私は幻覚のような力は使えない。
ただただ速く、視認すら許さぬほどの領域から攻撃を仕掛けるだけ。
速度だけなら、私は絶対者すら上回る。
世界最速の能力者だ。
【鎌鼬】が我武者羅に風を巻き起こし、周囲全てを吹き飛ばしていく。
自分の狩場を投げ捨ててでも、私から距離を取らねばと判断した訳だ。
ただ、今回ばかりは相手が悪かった。
特殊対策部隊を相手にするという意味がまるで分かっていない。
金剛さんであれば障壁で防げるだろう。
牙城先輩であれば最大火力で風ごと吹き飛ばすだろう。
西連寺先輩は転移で、吉良坂先輩に至っては避ける必要すらない。
そして私は、緩やかな光景の中で風の暴威を全て回避する。
「吹き飛べ」
【鎌鼬】を護る風の防壁を切り裂き、回し蹴りを顔に叩き込む。
踵が顔側面を捉え、そのまま振り抜くと、地面を抉りながら吹き飛んでいく。
吹き飛んでいく敵を追って、地を駆ける。
二秒足らずで追いつくと足を振り上げ、一気に振り下ろし、地面へと叩きつける。
砂塵から立ち上がる【鎌鼬】の姿はゆらゆらと揺れており、かなりダメージが通っているようだ。怒りの形相を浮かべ、途轍もない殺気が叩きつけられる。
私も地面に着地し、短剣を正面に構える。
「そろそろかな」
怒りのままに私に躍りかかろうとする【鎌鼬】の側面を超速の紫電が躍りかかる。
牙城先輩の超電磁砲だ。
今までの弱い攻撃はこの一撃の為の布石に過ぎない。自分を脅威として認識されない程度で、サポートし、終盤のこのタイミングで奥の手を放ってきた。
直撃する寸前、全力の風の防壁で超電磁砲を防ぐ。
流石はSランク級と言うべきか、あの無理な体勢から強引に防いだというのに、超電磁砲を完全に防いでいるどころか、僅かに押し返している。
――ただ、その足は止まった。
その隙を狩らんと、最速で足を踏み込む。
宙を撫でるように短剣を走らせ、必殺の一刀を繰り出す。
「八重桜」
風を、【鎌鼬】の体を容易く切り裂く二本の短刀。
一息に繰り出した八の斬撃が、敵の体を分断する。
怪物であればその状態からでも再生する可能性があるが、威力を弱めた風を突き破り、牙城先輩の超電磁砲が【鎌鼬】の体を蹂躙し、僅かな紫電を残し、完全に消滅させた。
他に敵が潜んでいない事を確認すると、短剣を仕舞い、手を大きく振り上げる。
「あぁ~ 疲れたあ! どうっすか、ちゃんと怪我もせずにSランク級を倒したっすよ!」
柳君は見ていなかったけれど、後で自慢していっぱいよいしょされよう。
自分が成長している実感と、この後の事を考えながら、私は元の道を引き返した。
◇
竹林とも住宅のある場所とも違う砂漠にて。
数名の能力者が集まっていた。
一つは西連寺・吉良坂・桐坂のチームで、もう一つは救急隊を含めた学校の能力者、七瀬の班が同じ場所に留まっていた。
「いきなり違う場所に来たけど、一体なにが・・・・・・」
困惑の表情を浮かべる学校チームに、吉良坂が近寄り、事情を説明する。
「私は特殊対策部隊の吉良坂です。まずは落ち着いて聞いて下さい。皆さんは現在、怪物の作り出した空間に引きずり込まれている状態です」
「こ、ここって怪物が創り出した空間なんですか?!」
「えぇ、抜け出すには本体を叩く必要があるでしょうね」
驚愕の声を上げる沖田、反対に、その傍にいる七瀬は冷静な瞳で周囲を観察していた。
(あらっ、この子って)
吉良坂は七瀬を見て、以前テュポーン騒動の際に出会った少女である事に気付く。
後で喋りかけようと思い留め、今は情報の共有を優先する。
「この空間には数百体の怪物がいます。現状でSランク級も四体確定しています」
その情報に驚愕の表情を浮かべる一同。
ただ、それでも表情を一切動かさない人物がいる事に気付く。
黒い長髪を後ろで一本に束ねている女性。
恰好から学校の教師だと判断するが、その実力を吉良坂の目をもってしても計れないでいた。
(これは、少し面白い事になるかも)
気付かれないように微笑を浮かべた後、この後の行動を話し合い、まずは遠方に見えている城を目指す事を決める。
さて、先生はどんな能力者かな?





