138話 赤いドレス
九章、了。
明日は人物紹介です(*´▽`*)
十章予告『都市伝説編』
隼人「暇だし、久しぶりに学校にでも行ってみるか・・・確かまだ籍あったよな?」
地上から離れた遥か上空。
Sランク級の飛行型の怪物を微弱な電流で麻痺させつつ片手で絞めながら、今しがた届いた連絡に絶対者序列一位が笑みを浮かべる。
「ほぅ、討伐したか。流石にあの二人であれば余裕だったか。ならばアンナは【黒騎士】の方に回せばよかったかもしれんな」
とはいえ、海を自由に渡航出来るようになった利点は大きい。
怪物に備えた戦艦以外が海を渡れることで物資の流通が格段に向上するだろう。
「それに比べ儂ときたら・・・・・・まさか【世界蛇】を発見する事すらまだ叶わんとはな・・・・・・」
引き受けると言っておきながら、何も成しえていない現状に頭を抱える。
奴が以前に出現した場所は隈なく調べ、一部空間を裂いてもみたが、一向に姿が見当たらない。
図体が巨大とはいえ、空間の中に潜られてしまってはこちらも見つけるに見つけられんという訳じゃ。
「頼りの綱が何処ぞに行ったのは予想外じゃったわ」
頼りの綱、【強欲】の吸血鬼ならば【世界蛇】の居場所を知っているだろうとイギリスに赴いたのはいいが、いざ拠点を訪れればもぬけの殻になっていた。
数十年引きこもっていたのに何故このタイミングでと思わなくもないが、こうなってしまえば仕方ない。先に別の不安要素を消した方が良さそうだ。
「なにから手を付けたものか・・・・・・」
現状最も恐ろしいのはユリウスだろう。
場合によれば儂もやられる可能性は零ではないからな。僅かにでも隙を見せれば確実に死ぬ。
全く・・・・・・厄介な男が敵に回ってしまったものだ。
しかし、狙われている隼人の傍にはシャルがいるから現状はおそらく大丈夫だろう。ユリウスの天敵ともいえるあの能力ならば、もしもなどという不確定な確率は存在しない。
そしてあの女が情に流されるという事もない。何せ元暗殺者じゃからな、隼人がうっかりシャルの逆鱗に触れる可能性の方がよっぽど高いだろう。
「ならば儂は、別の元凶でも探すかのう。明らかに近頃の怪物は強力過ぎる。必ずなにか原因があるはずじゃ」
そうと決まれば早速行動を開始だ。
電子機器を取り出し、まずは統括支部に近頃の怪物の出現頻度とランクの高い怪物が出現した国、地域の情報の収集を頼む。
「ギ、ギャァアアア!」
一度怪物から手を離すと、それを隙だと思ったのか、巨大な身を翻し、儂の体を翼で下方に叩き落とすと、落下している途中の儂に追撃をかけんと加速しながら空を駆ける。
落下に体を任せながら、左腕を前面に突き出す。
「雷霆」
余波で電子機器が壊れないよう意識した攻撃を上空に向けて放つ。
視界前面に波状型に広がる青電は、怪物の体を硬直させると、次いで訪れた二波が怪物の体に留まらず、骨と、そして細胞に至るまでの全てを破壊し尽くす。
上空で急停止し、電子機器が壊れていない事を確認し、画面が点くと一息吐いて安堵する。
「機器は電気に弱くていかん、サラに改造して貰ったが、ちともう少し耐性を上げる必要があるかもしれんな。っと、早いな。もう来たか」
先程送ったメッセージの返信が直ぐに届く。瞬時に全ての情報に目を通すと、予想以上に危険な状態に陥った地域が目立つことに眉を顰める。
Dランク級が月に数体、場所によってはCやBが出現している地域も前年に比べて明らかに多い。
この規模になると、流石に救援部隊では手に余る。かと言っても、特殊対策部隊にも限りがある事を考慮すれば、現状は非常に危ういと判断せざるをえない。早急に打開する必要がある。
「しかしまあ時間がかかりそうじゃが・・・・・・やるだけやるしかないかのう」
大体の目途は付いた。
何の成果もなしでは一位を名乗れんからな、ここは一肌脱ぐしかあるまい。
「全く、爺使いの荒い世の中じゃ」
アランは溜息を一つ吐くと、雷の軌跡を残しその場から消え失せる。
◇???
日本行きの飛行機の中、金髪に赤いドレスを纏った女性が窓の外を眺めながら、軽い笑みを見せる。明らかに周囲と比べ浮いた姿でありながら、彼女の姿を疑問を持つ人はいないのか、不自然に思える程、乗客の全員が彼女を視界に入れない。
「篤の息子・・・・・・ね、ふふっ。久しぶりに昂ってきたわね」
右手に持つ赤いグラスを軽く揺らしながら、いつかの人間を思い浮かべる。
「でも、魔女の血を引いているというのは少しぞっとするわ。あの女は何を仕出かすか分からないもの」
そう呟く女性は心底鬱陶しそうに眉を潜め、苦虫を噛む潰したように口を引き攣らせる。
彼女の脳内には、今でもその魔女、嫁入りしてからは柳秋穂と呼ばれる女性の姿が鮮明に思い浮かぶ。
最後にあったのは何年前だったか、女性があらゆる知識を集めんと、彼女にとっては“少しやり過ぎかも”と思うレベルの所業を行おうとした時、秋穂は現れた。
巫女服を羽織り、冷徹な瞳で女性を見下ろす女が。
女性はその時の光景を思い出すと、少し肩を震わせる。
(あれが巫女なものですかッ?! 薄っすらと笑みを浮かべながら、頬に付いた返り血を舐めるような人間は魔女に決まっているわ!)
そして当初の計画は止む無く中止したのだが、仕返しに女性が夫である篤を寝取ってやろうと近づけば、気配を察知した秋穂により更に恐ろしい所業が成され、女性は秋穂に対して若干恐怖に似た感情を持っている。
「ま、まぁ。今回は別になにかする訳ではないのだから大丈夫でしょう・・・・・・大丈夫よね? こ、コホン、少し息子で遊ぶぐらいはあの女に目を付けられないと思うわ、なにせ夫ラブのヤンデレサイコパスだもの」
若干不安は残るものの、なんとか女性は自分を納得させると、背もたれに深くもたれ掛かり、表情から軽薄さを消す。
「それに、このままじゃ【暴食】が暴走するでしょうしなにもしない訳にはいかないわ。暴走の恐れを分かった上で、魔女もあの子も放置しているのでしょうけど、大罪能力はそんなに甘いものではないわよ。簡単に掌握できるのなら大罪なんて呼ばれるはずがないもの」
己も大罪能力を保有している女性だからこそ分かる真理。
常識とかけ離れた異常者でなければ、大罪能力を完全に掌握する事は出来ない。
狐や半妖、選定者に序列三位の化け物。誰もが普通とは比べ何処か異常な精神を持っている。
その事を考えれば【暴食】を保有している少女は、他の所有者と比べまとも過ぎる。
「このままでは全て喰われるわよ?」
その台詞に一切の冗談は含まれていない。
なにせ女性は長い年月の間で幾度も見てきたのだから。
最も代替わりの激しい大罪能力、それが【暴食】。
自分が知っている中で、少女で既に八回目の代替わりである。
【暴食】の能力目当てで殺されたわけではない。
寧ろ【暴食】を殺す事は不可能に近い。
先代の保有者で最も異常であった存在は、己の死という概念を喰らっていた。
故に最強であり、あらゆる存在が敵と成りえない無敵であったわけだが・・・・・・まあ、結果は死んでいる。
いや、死んでいるというのは語弊だ、骨の一片も残らず喰らいつくされた、というのが正解だ。
なにに?
言うまでもないだろう。
【暴食】という能力に殺されたのだ。
【暴食】とは、暴走すれば所有者すらも殺す大罪能力である。歴代の能力者は全員、等しく能力を暴走させて結果的に死んでいる。
「さぁて、今代の選定者はなにを選びなにを捨てるのか。最後まで見届けてあげましょう。出来る事なら無様に死ぬのだけは勘弁して欲しいわね」
グラスを傾けて中のワインを飲み干す。
女性は、少し血を吸いたい衝動があるのを我慢し、日本に着いたら存分に魔女の息子の血を吸ってやるのだと少し息巻く。





