137話 序列三位
【レヴィアタン】の分身五体による、海流の攻撃が直撃した天使は成すすべなく蹂躙され、その身を粒子へと変える。
「おいおい、話になってねえじゃん」
「あるぇ~ おかしいな? 私の予想ではもっと接戦するはずだったんだけど。まあでも役に立つ結果を得られて満足だ!」
あんたが満足でも仕事が終わらなかったら意味が無いんだよ!
「どう改善すればいいのかな~」と首を捻っているのがなんとも腹が立つ。
「・・・ありゃ?」
視界の端で、二位が突然海面に膝を突いた。
開かれた目から、それが予想だにしない者である事が分かる。
「どうした?」
「ああっと、なんだろう? 体がいきなり重くなったんだけど」
再び立ち上がるも、その動作は先程と比べてどこかぎこちない。
どういうことだ? 二位が膝を突くほどの攻撃がされている?
先程の天使がやられた事と関係しているのかとも考えたが、この女の能力にそんな厄介な特性はない。
という事は奴の能力か。
海水を操る能力ではないのか?
「・・・あぁ、分かった。この感じ、ソフィアちゃんや吸血鬼ちゃんと同じ――大罪能力だ」
――然り。我が大罪は【嫉妬】。
私達の足元の海面に影が浮かび上がり、巨大な顎が飛び出す。
寸前で宙に飛び上がり回避する。
「一つ問おう。何故貴様には効いていない?」
下方から鋭い眼光が私を睥睨する。
答えは単純。私に降りかかる攻撃を全て反射しているからだ。
それは物理攻撃に留まらず、例え視認できないような攻撃であろうとも反射の例外ではない。
「答える必要があるか?」
「ならば死ね」
夥しい量の海流が迫る。
視界の脇から閃光が爆ぜると、二位の砲撃が全ての海流を蒸発させた。
再び海面に着地すると、二位の様態を尋ねる。
「大丈夫か? 辛いなら後は私が受け持つが」
「あぁ、アンネちゃんが心配してくれてる! 優しい・・・」
「大丈夫そうだな。なんでさっさと倒さないんだよ」
「いや~ 結構体がキツイってのもあるんだけどね。素晴らしい研究材料を私の手で消すのがどうしても出来ないんだよッ!」
顔を青くしながら阿呆な事を宣う。
熱中し出したら止まらないタイプだな。面倒くさい。
「はぁ・・・じゃあ私がやるから。あんたは私とあいつを隔離した簡易空間を創ってくれ」
「了解!」
元気に敬礼しているが、呼吸がかなり浅くなっている。
【嫉妬】は呪いの類か? ウツボを殺せば治ると思いたいが・・・いや、なんだかんだ二位なら自分で治しそうだな。
「はぁはぁ・・・今の自分の症状を早く記録しないと! えっと手帳は・・・」
本当に大丈夫そうだな。
薬漬けで死んだりしないか心配になりそうだ。
「・・・ったく」
余所見している私に海流の槍が雨のように飛来するが、パーカーに触れた瞬間、全ての槍が元の場所に反射される。
「その能力、人間の身には過ぎたものだな」
向けられる視線に含まれるものは怒り、憎しみ、そして妬み。
何故妬みを向けられるのかは分からない。しかし、その感情の大きさは尋常ではない。自分に害が無いと分かっていながらも、少しだけ鼓動が早くなった。
「さあ、それでは招待しよう」
どうやら準備が整ったようだ。
二位が満面の笑みを浮かべ、仰々しい動作で頷く。
「全てが許される世界。存分に力を振るうといい」
パチンッと指を鳴らす。
「希望の存在しない世界」
私とウツボの中間地点に出現した球体が一気に膨れ上がり両者を呑み込む。
「・・・今回は草原か」
先程の海の景色が一変し、草木の生えた草原へと変わる。
そして、海がない事で【レヴィアタン】の姿が完全に露わとなる。
「世界を創造したのかッ!」
驚愕の声を上げる蛇のような怪物。
(こんなんが海にいたら安心して漁も出来ないわな・・・)
目測で全長数千メートル。
こんな巨体なら海流を操る必要もなく移動するだけで、通った場所全てが海の藻屑となるだろう。
「なんとも厄介なッ・・・だが、貴様だけならばどうとでもなる」
草原に海が生まれる。
一瞬にして私が立っている場所を含め、見渡す限りの大地が沈む。
生まれた海水は私の周囲を覆うが、ぶつかる事なく一定の距離を保ち停滞する。
「貴様の能力は反射だろう。ならば攻撃しなければ脅威になりえぬ。いずれ酸素が尽きた時、藻掻きながら死ね」
ポケットから手を出し、周囲の海水に近づくも、私の動きに合わせて海流も動き触れる事が出来ない。
「これはピンチかもな」
そう一人ごちる。
まあそれも、私の能力が単なる反射であればの話だが。
出した両手を正面でパチンと音を立てて合わせる。
「手向けだ。私の能力を教えてやろう」
海流の檻で聞こえているかは分からないが、それはどうでもいい。
久しぶりに少し能力を派手に使える事に気持ちが昂る。
「私の能力は確かに反射だが、それだけではない。反射する攻撃を倍にして返す事ができる」
大雑把に言えば、およそ100分の1倍から10倍の範囲で反射する事が出来る。
そして反射したものの方向を任意で操作する事も可能だ。
「そこで問題だ。私が手を叩いたエネルギー、こいつを掌の中で10倍にして反射し続ければどうなると思う?」
掌から漏れ出る膨大なエネルギーの熱が周囲の海水を蒸発させ始める。
「何だ?」
少し慌てたような、焦燥している声が聞こえて来る。
もう全てが手遅れだが。
「手を叩いたエネルギーかけるざっと10の60乗。超新星爆発をも超えるエネルギーに耐えられるなら耐えてみろよ、SS!」
勢いよく両手を開く。
――視界が消える。
――音が消える。
――全てが無へと還る。
必要のない要素を反射している私に攻撃が届く事はない。
ただただ白い空間で膨大なエネルギーの爆発を反射し続ける。
そこでふと、私の視界は変わり現実へと戻された。
眼前には頭を抱えた二位の姿がある。
「まだ体調悪いのか?」
「いや、そっちは大丈夫なんだけど。アンネちゃん・・・ちょっとやり過ぎ。ずっと見てたけど、これじゃ骨も残らないよ。ほら見て」
そして光る球体のようなものを見せられる。
そこにはなにがあったのか、全てが崩壊し消失した惑星の瓦礫のようなものだけがあった。
「最期の言葉を残す暇なく【レヴィアタン】は文字通り消滅したよ。あのままだとアンネちゃんも宇宙空間に放り出されて終わってたかもよ?」
「・・・大丈夫。その時はなんとかする」
誤魔化すようにフードを目尻深く被る。
「ん?」
なにかが体に入ってきた感覚がした。
害となるものは全て反射するから、恐らく問題ないものだと思うが。
目を瞑り、その存在を意識する。
「これは、【嫉妬】の能力か?」
「どうしたの?」
「いや、多分だけど、【嫉妬】の能力を手にした・・・と思う」
「・・・・・・ちょっと解剖してもいい?」
取り敢えずいかれた事を言う二位の胸を叩く。
「あんっ! いやすごいよ! もしかして大罪能力は殺したものが継承できるのかもしれないッ!」
「確かにそうかもしれないが・・・阿呆な事を考えるなよ? ソフィアを襲うとか言ったらここであんたを倒すぞ?」
「そんな事しないって! 私は研究と同じぐらい美女、美少女を愛しているからね!」
満面の笑みで言う事じゃねえよ。
「ふふふっ、だけど他の大罪能力は殺してもいいよねぇ。【憤怒】、【傲慢】、そして【暴食】!この三つが美少女でないのなら・・・ふふふふふふふ!」
元気そうで結構だが、早くこの変態とは離れたい。
「ほら、仕事は終わったんだ。さっさと帰ろう」
「オーケー! 帰ったらおすすめのお店に行こう!」
「いや別に」
「可愛い猫ちゃんとかもたくさんいるよ~」
「・・・仕方ねえな」
別に猫に釣られた訳じゃねえからな!
ASMRというものを知りました。
耳の癒しがこれ程までとは・・・感服ッ!(*´▽`*)





