133話 駿足
遅くなって申し訳ないです<(_ _*)>
クリスマスを呪っていたらいつの間にか・・・
ウォーミングアップは終わった。
俺達は本格的に殺す為に、各々の枷を開放する。
「来てくれ、シル」
ジャックはその手に、理を歪める神器を、
そしてレオンは、その身を獣の姿へと変貌させる。
「ぐぉおおおおおおッ!!!」
体長は二メートルを超え、咆哮に呼応するように黄金の毛が一層輝く。
【獅子奮迅】、レオンの人生で三度目となる奥の手の発動、その劇的な進化は凄まじく――気付けば、【黒騎士】の正面に移動したレオンの剛腕が奴の胸部を捕らえていた。
攻撃に伴う衝撃と腹の底まで響く轟音が、その攻撃に秘められた絶大な威力を物語る。
僅かのタイムラグを経て――【黒騎士】の体が後方へと吹き飛ばされた。
(やはりお前はそのままでいい、何も考えない方が性に合っているだろうからな)
予想通りの結果に俺は頷く。
数百キロを超える空間の先に存在する本体に衝撃を届かせた。
その事実に俺は、俺達はなにも驚かない。
誰よりも野生で、
誰よりも自分の力を信じている。
敵がどうのというのは関係ない。それが如何に理不尽極まりない存在であろうと、あの男は笑ってその拳を振りかざす。
奴はそういう男だ。
その本能の赴くままの行動が数多の怪物を屠り、その数百、数千倍以上の人類を救ってきたのを見てきた身として、奴の行動を馬鹿にはするものの、決して侮る事はない。
故に、その拳が理不尽を捕らえるのは、俺の中では必然であった。
そしてこれも必然だろう。
直情的な馬鹿の姿に魅せられた、もう一人の馬鹿が飛び出す。
吹き飛ばされた【黒騎士】の元へと転移したジャックが背理剣を上段から振り下ろす。強引に体勢を整え、奴も剣で受けるが、その間に存在するはずの空間は背理剣の前では意味を成さない。
直接互いの刃が打ち合い、ジャックの笑みが増す。
「一段上げようか」
背理剣の姿がぶれる、と同時に【黒騎士】の鎧に傷が入る。
背理剣による身体強化が【黒騎士】の反射速度に勝った訳だが、背理剣による直接攻撃で切り裂く事の出来ない鎧が存在する事に眉を顰める。
僅かによろける奴の上から、一瞬で距離を詰めたレオンが拳を振り下ろす。
「らぁあああ!!」
衝撃が他に逃れることなく、重圧に押されるように奴の体が沈む。
「テオ!」
「分かっている」
レオンの叫びに俺は淡々と返し、音速を超える速度で奴の周囲と瓦礫を土台に両足で駆ける。脚力に耐えきれず数秒で周囲の建物一帯が瓦礫から塵へと変わる。
そのまま【黒騎士】の上空で体を反転すると、空間を最大威力で蹴りだす。
飛散する雲を背景に、一直線で【黒騎士】へと突き出した槍は、奴との間にある空間でコンマ数秒停滞した後、そのまま突き破り、奴の左腕を貫いた。
「ふッ!」
追撃で横薙ぎに振るった槍を、奴は後方の距離を圧縮する事で避ける。
宙を舞う腕が地面へと落ちる姿を、奴はただただ視線で追い、すぐに俺達へと視線を戻す。
「ひゅ~ 流石だね。鎧の隙間を貫くなんて」
「レオンが一瞬止めたからな、それだけ隙があれば十分だ。それよりも・・・どうやら奴は俺に目を付けたらしい」
【黒騎士】の視線が俺で止まる。
俺が腕を穿ったことで怒りを抱いたのか、それともこの中で最も殺しやすい存在だと思われているのか。
「もし後者であれば、随分と舐められたものだ」
槍の穂先を奴へと向ける。
「来い」
俺の言葉を理解しているのかは分からないが、言い終わると同時に奴が俺の背後へと一瞬で移動し、剣閃が首へと狙いを定め空間を撫で斬る。
まあ、既に俺はその場にはいないが、
「温まって来たな」
俺の姿は【黒騎士】の背後、奴は俺の残像を斬ったに過ぎない。
幾ら瞬間移動に近い動きが出来ようとも、俺の速度に反応が間に合わないのであれば、おそるるに値しない。視界内に存在する世界全てが俺の間合いだ。
「千槍」
零距離からの槍の連撃。
その技の通り、千にも及ぶ槍の連撃が放たれ続ける。一呼吸に十の連撃を見舞う技を片腕で凌ぐことは至難の業だ。
【黒騎士】は俺の気配に気づき、瞬間的に初撃を剣と狭間にある空間で受けるが、それが続いたのは僅かに五秒。俺の槍が奴の鎧を掠める。
(やはり、連撃を当て続ければ空間を削れるか。問題はそれが長くは続かない事だが)
最後の十連撃を放つと共に、俺は地面を蹴り上空へと逃れ、後方へと目をやる。
「消え失せろ!」
レオンが変身した獣の口の中で溜められた闘気が膨れ上がり、天をも震わせる咆哮と共に極光が【黒騎士】へと迫る。
「がぁああああッ!」
目を瞑る程の光の奔流。
触れるもの全てが無へと還り、理不尽の嵐が大地を蹂躙していく。
【黒騎士】は回避が間に合わず、その身を極光に全て呑まれる。
シュゥウ!という音が耳を伝い、光の中に目を向ければ、その中で立ち、光の奔流を剣一本で凌ぐ【黒騎士】の姿が目に入った。
「・・・流石はSSか」
光が収まり、目に映るのは所々鎧が赤みを帯びながらもしっかりとその両足で立ち続ける【黒騎士】の姿だった。
その姿は正に、君主を護る騎士のようだ。
不屈の闘志を持ち、どのような攻撃を受けてさえその膝を突くことはない。
もしも噂通りパースの魔女が生きているのだとすれば、こいつはその少女を護っているのだろうか。一度そちらの方も調査する必要があるかもしれないな。
「ジャック、レオン、被害は気にしなくていい。全力の一撃を備えろ。こいつは並みの攻撃では意味がないようだ」
「それには同意だけど。隙なんてないよ?」
「問題ない。無理矢理作ればいいだけだ」
奴のポテンシャルは速度を除けば俺と同等以上。その上厄介な超長距離破壊攻撃を保持しているが、慣れてしまえば問題ではない。それにもし喰らったとしてこの身が傷つくとは思えない。
「おぉ・・・いつになくテオがやる気だね。分かったよ、その代わり本当に本気でやるからね?」
「ははは! それなら遠慮なく俺もぶちかますぜ!」
レオンの闘気とジャックの剣気が溢れ、二人の空間が歪んで見える。
この分なら奴の鎧を破壊できるだろう。
二人の様子を確認した後、俺は奴へと向き直る。
僅かに空気が変わる。
そして俺が居た場所を含め、その背後の景色全てが消え失せる。
「それはもう見ただろ」
俺の姿は既に奴の正面に。
攻撃を放たれる際に、射線上から退避し、再度奴の正面へと移動したのだ。手を出す動作が無くなったと言えど、能力が発動する寸前の空気は肌で感じ取れる。
槍の突きを放つも、奴の寸前で姿が消える。
「上空か」
視界には映らないが、殺気が駄々洩れている。
上空ならば近接の俺は使えないと考えたのか。
全く、怪物の癖に常識で考えるなよ。
俺は脚に力を入れると、地面を陥没させる勢いで上空に飛び上がる。
「見つけた」
すぐに【黒騎士】の姿を発見する。
そして、そのまま宙を蹴りながら奴へと迫る。
再度俺の視界から姿が消えるが、すかさず俺は体を反転させ、両足で宙を蹴ると、移動した【黒騎士】の剣と打ち合う。
「俺の間合いは視界内全て、それは空であろうと変わらんよ。あまり俺を見くびるなよ」
互いの力が宙で激突する。
能力で移動し攻撃する【黒騎士】、
宙を縦横無尽に蹴りながら移動する俺、
もしも空から俺達を見下ろす者がいるのならば、まるで反射する弾丸のように映っている事だろう。
そして弾丸は、加速する。
【黒騎士】の反射速度を超えた踵落としが狭間の空間を一瞬で突破し、奴を地へと叩き落とす。
地へと衝突した【黒騎士】は特大のクレーターを作りながらも、今だその足で立ち上がる。
巻き上がる砂塵へと俺は飛び込むと、槍の突きを放つ。
確実に捕らえたと思われたそれは、何故か宙に浮遊する左手に捕まれ、宙で静止させられていた。
千切れ飛んだはずの腕、それが意思を持って独りでに動いている。
(全く、常識が通用しないのはお互い様という訳だ・・・)
槍が止まった一瞬の隙に、奴は剣を俺の腹部へと突き立てる。
刃が皮膚を、肉を裂き、俺の背から飛び出す。
「ぐふっ・・・!」
腹部から大量に流れる血を見て、
【黒騎士】の腕をあらん限りの握力で掴みながら、俺は口の端を吊り上げた。
「ふむ、やはりお前が自分から接触する分には狭間が生まれないのか。ただ、この体が傷つくのは流石に予想外だったな、まさか神器か?」
俺の両脇から二つの影が飛び出す。
この特大の隙を逃す奴等ではない。
【黒騎士】の右側をレオンが、左側をジャックが捕らえる。
「喰らえ、獅子の凶拳!」
「薙ぎ払え、シル!」
衝突と共に、絶対者二名による全力の攻撃が、大陸を揺らした。





