132話 ウォーミングアップ
テオ視点。
「相手はSSだ。三人で確実にいくぞ」
「ちっ、しゃねえか」
「えぇ、折角特訓したのになぁ」
俺達が構えると、それに応えるように【黒騎士】が地面に突き刺していた剣をゆらりと抜き、正眼に構える。
漆黒の鎧の隙間は僅か数センチもなく、狙うにしても相当な技量が必要であろうと考える。
であるならば、わざわざ弱点であろう場所を意識して狙わず、数の利を活かした手数で圧倒する方が合理的だろう。
「まあ、二人は互いの邪魔にならない程度で好きに動いてくれて構わん。危険だと判断すれば、俺がなんとかしよう」
「そりゃ助かるっ!」
視界の端でレオンが飛び出す。
瞬く間に距離を詰めると、その剛腕を打ち放つ。
レオンの拳を迎えるように奴の剣が後の先をとる。
「らぁッ!!」
初手、気合十分に打ち出された拳が上段から振り下ろされた剣と打ち合う。
甲高い音を響かせながら、衝撃波が周囲を駆ける。強敵を前にレオンは笑みを濃くすると、そのまま追撃を掛ける。
お互い引かずの拳と剣の連撃。
見た所、【黒騎士】の方がまだ余裕がありそうだ。まあ、戦闘開始からまだ十数秒。レオンはまだ本調子には程遠い。
飛び散る火花の中を、影が迫る。
【黒騎士】の背後をとったジャックが剣を横薙ぎに振るう。
寸前でジャックの存在に気付いた奴は、刃先が当たる瞬間、剣を握る手を片方放し、裏拳でジャックの剣を受け止めた。
「ありゃ? 斬れないな」
僅かに驚愕した瞳を浮かべるジャックだが、全く動揺することなく次の一手に繋げる。
「フレーリア」
零距離からの神器の能力が炸裂する。
地面から突き出した氷塊が【黒騎士】を宙へと投げ出す。
「完璧だ」
「そりゃどうも!」
間髪入れず、宙へと投げ出された奴へと右手で握った槍を突き出す。
突撃の勢いのまま、直線状の建物を投げ倒していく。
(こいつっ・・・あのタイミングで間に合わせたのか)
確実に胴を穿ったと思ったが、宙で体を捻り俺の槍の穂先を剣の刃で受け止めている。
そのまま地面に衝突して砂塵が舞う。お互い無傷のままの状態で砂塵から飛び出すと、距離を置いて睨み合う。
遅れて二人が俺の元へと到着すると、実戦し感じた所感を尋ねる。
「奴がまだ能力を使っていないとはいえ、どう感じる?」
「俺もまだ本調子じゃねえしな。まだなんとも言えん」
「う~ん、兎に角鎧が堅過ぎるかな。まさか剣が通らないどころか傷も付かないとは思わなかったよ。やっぱり鎧の隙間を狙うしかないのかもしれないね」
それ程までか。とは言え、相手が並の相手では無い以上、鎧の隙間を狙うには明らかな隙が必要となる。
脳内でシュミレーションしようにも、相手の能力が分からない以上意味がない。
「ふむ、まずは奴の能力を引き出すぞ」
「予想とかついてる?」
「判断材料が少なすぎる。せめて一度でも見れば大体の見当はつくと思うが」
「だよね・・・」
「・・・やはりここは俺に任せてくれねえか」
何処か真剣みを帯びた声でレオンが言う。
視線を移すと、明らかに集中力が極限状態に達しているレオンの姿が視界に映った。ゆらめく闘気が蓋を開けて体から滲みだしている。
(全く・・・これだから野生児は恐ろしい)
以前にも見た事がある。
強敵を前にしたレオンの集中は常軌を逸している。今のこいつは、おそらくいつも以上の未来が見え、あらゆる選択肢から最善手を強引に引き出す。半端に俺達が手を出せば逆に調子を崩しかねない。
「いいだろう。ならばしばし休息させてもらう」
「おや? 確実にいかなくていいのかい?」
「ああ、気が変わった。ただし、危険だと判断すれば飛び込むのは変わらん。それまでは――存分に暴れてこい」
「はッ! テオのくせに話が分かるじゃねえか!」
余計な台詞を吐きながらレオンが【黒騎士】へと悠然と歩きだす。
俺は槍を地面へと突き刺すと、ただただ相手の能力を暴く為に思考を回転させる。
「悪いな、待たせちまって。お前の相手は俺だ」
レオンの言葉に黒騎士は言葉を返さない。ただ、その返答は神速の一閃にてレオンには十二分に伝わった。
「いいなッお前!」
視認すら難しいそれを一切の動揺もなく、体を半身逸らすだけで躱す。
当然と言えば当然。なにせレオンには全ての攻撃が『視えて』いるのだから。
「ははははッ!」
一撃を打ち込むごとに、威力が上昇していく。
その姿は正に【破壊王】と呼ばれるに相応しいものだ。地域一帯が悲鳴を上げるように揺れ動く。
(3分経ったか・・・・)
徐々にレオンの拳が鎧に掠り始めた。
対してレオンは無傷。おそらく、そろそろ来る。
「ぶっ飛べッ!」
完全に拳が腹部を捕らえ、奴を大きく吹き飛ばす。
体勢を整える隙すら与えずレオンが追撃を掛けようと、一歩踏み込み、寸前で上空へと飛び上がった。
「避けろぉおおッ!」
レオンは俺達へと振り返ると、声を張り上げて回避を促す。
視線の端で、こちら側に右手を突き出している【黒騎士】の姿が映った。どうやらレオンと俺達が同一直線状に並んだ瞬間に能力を発動しようとしているらしい。それも、レオンの様子から相当強力なものを。
殆ど反射に近い動作で、俺とジャックはその場から左右に散開する。
そして、一秒にも満たないタイミングで、俺達の立っていた場所を含め、
――【黒騎士】の眼前にあった光景全てが吹き飛んだ。
「なぁッ?!」
比喩でもなんでもない。
目に映る光景に建物の姿は一つもない。残骸すら残らず、見えているのは地平線のみだ。
「あっ、やべ」
レオンの呟きに視線を移すと、宙を飛んでいるレオンの眼前に【黒騎士】の姿があった。
先程まで別の場所に居たはずだというのに、移動するおこりすらなく、忽然とレオンの前に現れた。
そして、レオンの顔に奴の右手が届く寸前で、レオンの姿が消えた。
手の直線上を追うように顔を僅かに後方へと向け視界を集中すると、遠くで砂塵が舞っているのが分かる。
(あそこまで飛ばされたのかッ!・・・・・・瞬きの間で数キロは飛んでいるぞ!)
「調子に乗らないでくれるかな」
間髪入れず、地面を滑るように特殊な歩法でジャックが迫り、空間ごと切り裂くような一刀が鎧の隙間目掛け迫る。
「ッ?!」
刃が、止まっていた。
鎧にすら当たらず、一センチほど空間が空いた状態で、微塵も動いていない。
その隙を逃さず、【黒騎士】が上段から剣を振り下ろす。
「・・・成程、大体把握した」
振り下ろされる剣とジャックとの間に穂先を滑り込ませ、一撃を防ぐ。
片腕で防いでいる状態から、片脚を胸まで引くと、最大威力で【黒騎士】にぶつける。
衝撃波は殆どない、【黒騎士】は紙の舞うように、僅かにだけ後退するに留まる。
それを確認すると、一度距離を取るように後方へと飛び退く。まあ、飛び退いたところで然程意味もないが。
「助かったよテオ。それで? あいつの能力は分かったのかい? 寸前で止まったから障壁のようなものかな?」
「その可能性も零ではないだろうな。・・・ただ、俺の仮説だが、奴の能力は空間内の距離を支配しているのだと思う。お前の剣が止まったのは、奴との間に、見ているものとは違う距離の差があったからだ」
「・・・ふむ、じゃあその仮説があっているとして、その射程は?」
「一つだけ前情報があっただろ。奴は衛星を破壊している。とすればだ、射程は最低でも400キロメートルだろう」
「うへぇ・・・400? 届かないんだけど・・・」
俺が全力で蹴ってあれだけで済むはずがない。
奴の能力が障壁であれば、蹴る瞬間になにかしらの衝撃が俺にもくるはずだが、その衝撃が全く無かった。
吸収である可能性も考えたが、それならレオンが吹き飛ばされた理由が分からない。
とすれば、奴の能力は距離全般を自由自在に操れるではないだろうかという事だ。
凝縮された数百キロの距離を一気に開放すれば、あの馬鹿げた破壊力も頷ける。そして奴の防御も然りだ。
さて、どうしたもんかと考えていると、俺の隣に宙から野生児が轟音を立てながら戻ってくる。
「痛ってぇな! ったく。それで? あいつの能力は?」
額から僅かに血を流してはいるが、まだまだいけそうだな。
「深い事は考えなくていい。レオンはただ全力で奴をぶっ飛ばせ。ジャックは背理剣を出すべきだろう」
「まあそうだよね。はぁ、仕方ない、あまりシルは使いたくなかったんだけど」
「そりゃいい、こっちはもう五分だ。巻き込まれねえようにしろよ?」
「加減は必要ない。本気でやらねば届かないからな」
安心しろ、必ず隙は作る。
全ての条件を当てはめ、脳内で数千のシミュレーションを済ませた。
明日はクリスマス!
作者は特に予定はありませんが、皆さんはなにかご予定が(*´▽`*)(圧)?
・・・まあ、小説書いときますか・・・インコと戯れときます。





