123話 お昼寝
温かい感想に感謝(*´▽`*)
神社からの帰り、久しく訪れていなかった特殊対策部隊の本部に足を運ぶ。
今の気分を現すとしたら『天国と地獄』といった具合だろうか、神社での交流で穏やかになった気持ちと、テュポーンの後片付けを手伝うことが出来なかったため、皆が過労で倒れてない不安な気持ちがない交ぜになっている。
「ほぁ~ 暁さん綺麗だったな~」
対して、蒼は今も頭の中がお花畑状態のようだ。
あの尻尾に埋もれたのなら仕方ないのかもしれないが・・・羨ましくて堕ちてしまいそうだ。こんな事で【魔王】になったら笑えないんだが。
ふらふらしている蒼を支えながらなんとか本部に到達すると、一度深呼吸をして中へと入る。
そして、目に入ってきた光景に驚愕した。
「せ、先輩! 桐坂先輩しっかりして下さい!」
「うっ・・・こ、後輩なのですか?」
エントランス部分で仰向けに倒れている桐坂先輩を発見し、急いで傍に駆け寄る。
見た限り外傷はないようだが、かなり疲弊しているようだ。
「くっ! 一体誰がこんなことをっ!」
「こ、後輩・・・」
「しっかりして下さい先輩!」
「私を・・・・・・ベッドに、連れて行くのです・・・もう、二日寝てない」
そう言葉を言い終わると、ガクリと頭を俺の胸に預け、桐坂先輩は寝息を立て始める。
「可愛い寝顔だね~ 小さい子なのに目に隈があるよ」
言われてみれば、確かに目元に隈が見える。
敵襲の攻撃ではなかったことに安堵すると共に、これは桐坂先輩だけじゃなく全員がこうなっているのではと嫌な予感が頭を過ぎた。
嫌な予感、というのは俺だからか、それとも他の人間も同じであるかは定かではないが、やはり、ほぼ百パーセント的中してしまうらしい。
「は、隼人君っすか・・・ふふっ、久しぶりっすね」
上階から降りてきたエレベーターより現れたのは、いつもと比べ、頼りなく下がった彼女のチャームポイントであるサイドポニーテイルを力なく揺らしている服部さんであった。
服部さんも桐坂先輩と同様に目元に隈を作り、笑みは疲れからか若干引き攣っている。
「ようやく・・・今朝全ての仕事が終わったんすよ・・・」
「お、お疲れ様です」
「鈴奈さん、もう寝た方がいいんじゃ・・・」
「ああ、蒼ちゃんもいたんすね・・・大丈夫っすよ。お姉さんは頑丈なんす」
ぐっとサムズアップする服部さん。これほど頼りないサムズアップも珍しい。
今からでも仕事を手伝おうと思ったが、どうやら運悪く、今朝に全ての仕事が終わってしまったようなので、残念ながら俺の出番はないようだ。
眠ってしまった桐坂先輩を起こさないようゆっくりと背に乗せ、両腕で下から支える。想像したより軽い体重にしっかりと食べているのかと心配になる。
今回の騒動において重傷者の数を考えれば、桐坂先輩の能力はずっと発動しっぱなしだったに違いない。せめて今は、ゆっくりと眠って欲しいものだ。
幸い、これからは回復能力のある【大天使】を俺が使えるようになったので負担を少しは減らせるかもしれない。
とは言え、俺が複数の能力を保持している事を出来るだけバレたくは無いので、使用するのは信頼している一部の人間に限られてしまうが。
俺は一歩服部さんに近寄ると、彼女の手を無造作に握る。
蒼がジト目を向けてくるが、緊急事態だから今回は見逃して欲しい。
「癒せ」
俺と服部さんの視界に一枚の、純白の羽がひらひらと宙を漂いながら彼女の手に落ちる。
羽が服部さんに触れた瞬間、服部さんの体を白い輝きが包み、それが弾けると、服部さんは驚いた顔をしながら自分の体を動かす。ちなみに、背で寝ている桐坂先輩も回復させたので、目元の隈が綺麗に消えて穏やかな寝息を立てていた。自身に発動するときと違い、他人に対しては桐坂先輩以上の回復能力はないが、先輩の能力と違い疲れを癒す能力があるのだ。
「凄いっ、疲れが吹っ飛んだっす! 隼人君がいれば栄養ドリンクもいらないじゃないっすか!」
「それは評価されてるんでしょうか?」
「最大の誉め言葉っすよ! ここ数週間ずっと飲み続けてきたっすからね!」
・・・本当に、手伝えなくて申し訳ない。
記憶が無かったという免罪符はあるが、ここに居る人はそんなものがなくとも俺に文句を言うような人がいないので、逆に罪悪感が湧き上がる。
「金剛さんは残念っすね~ 綺麗に入れ違いになっちゃったっす」
「帰られたのですか?」
「ふっふ~ それが、恋人の香織先輩が回復の兆候にあるってことで即行で病院に駆けたんすよ~」
「おお! それは良かった」
本当に良かった。
あの状態から回復に向かうのは奇跡的な確率だ。これは怪我を回復させた桐坂先輩のお手柄だな。後は、俺に手を貸しているどこぞの柱が少しお節介を焼いていたのかもしれない。彼等もかなりプッツンしているようだったから。
まあ、何処にいても神は見ているという事だ。
「お兄ちゃん、香織さんて誰?」
「ん? ああ、特殊対策部隊の大先輩なんだが、今は怪我で一線を引いている人だ。金剛さんの恋人でもあるらしい」
「ほえ~ ・・・じゃあ、大丈夫かな」
なにが大丈夫なんだ?
俺にとっては嬉しい話であるが、大丈夫な要素は皆無な話だったんだが。
牙城さんもモテモテだという事を考慮すれば、俺だけ彼等に置いて行かれる可能性が大である。
そうなれば・・・俺は恐らくジャックさんを殺してしまうだろう。あの人に俺の恋愛成分を全て吸い取られている違いない。あの人、女神にも好かれているという事は流石にないよな?
「それで? 今日はなんのようで本部に来たんすか?」
「おっと、そうでした。ちょっと統括支部に連絡したい事があるので機器を借りに来たんですよ。戦闘でスマホが完全に壊れてしまいまして・・・」
「あちゃ~ そういう事ならどの機器を使ってもいいっすよ。ここには何でもあるっすからね。じゃあ蒼ちゃんは私と遊ぶっすか?」
「是非っ!」
「じゃ、決まりっす! 皆ずっと忙しくてサリーに構ってあげられなかったっすからポメラニアンのサリーも一緒でいいっすか?」
「はい! もふもふは大好きです!」
なんだその幸せ空間。
俺も直ぐに連絡を済ませて輪に加わろう。
「じゃあね~ お兄ちゃん」
「待ってるっすよ~」
「四十秒で済ませます」
そう言うや否や、背中で寝ている桐坂先輩を起こさないように、体を一切揺らさず機材室に駆け込み、機材を借りて統括支部に連絡する。
内容は、昨日の敵について。絶対者と同等の敵が二人いる事を伝える。後はその敵について話したい事がある為、絶対者同士での話し合いの場を設けて欲しい旨も加えた。
流石にこれからは、他の八人も関わってくる事態に発展するだろうと思ったからだ。
おそらく敵は二人だけではないだろうからな。
既に俺は二人以外にも一人――この手で絶対に殺さなければいけない相手を知っている。
そしてまだ見ぬ敵も考慮すれば、どう考えても俺一人の手では対処しきれない。
ならば、今の時期に情報は共有しておいた方がいい。
「ふう、これで終わりっと」
打った文章を送信し、一息つく。
ついでに新しいスマホの申請を済ませると、サリー達のいるであろう楽園へとようやく足を進める。桐坂先輩をそろそろベッドに預けたいが、マンションにある先輩の部屋番号を知らない為、結局背負ったままここまで来てしまった。
(まあ、気持ちよさそうに寝てるからいいか・・・)
最上階の十五階のボタンを押してドアが開くのを待つ。
チンっという音と共にドアが開き、足を踏み出す。
草原の広がった階層。
その中央に二人と一匹の姿が見える。
「お~・・・っと」
呼びかけようと声を出そうとするが、途中で声を潜める。
集団に近寄ると、二人がサリーに抱き着きながら、全員で可愛らしい寝息を立ててお昼寝をしていた。先輩も疲れていたし、蒼も食べたばかりでお昼寝には丁度良かったのだろう。
しかし、窓から入ってくる直射日光が当たるのはいただけない。これでは快眠出来ないだろう。二人の傍に桐坂先輩も同じようにそっと置くと、致し方ないと俺は能力を発動する。
すると、背中から数メートルにも及ぶ純白の片翼が生え、お昼寝集団にかかる直射日光を遮る。
「この姿はあんま似合ってないから嫌なんだけどな」
・・・まあ、偶には天使らしい事をするのも悪くないなと、可愛らしい寝顔を見ながら、そんな事を思った。





