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神々の権能を操りし者 ~能力数値『0』で蔑まれている俺だが、実は世界最強の一角~  作者:
第八章 茨の選択編

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116話 記憶

 それは記憶。

 鍵の壊れる音と共に脳内のパズルが全てはまった。

 そう、全て――その中には以前の俺ですら忘れていた、いや、封印されていたものがあった。


 十年前の記憶である。

 俺がまだ小学生に入学してもないそんな頃、俺の身に事件が起こった。


 母さんの仕事があるとかで、少し田舎の地域に出向いた。別に俺が行く必要はないのだが、母さんの力に少しでもなりたかった俺は当然の如く後を付いて行った。


 当時の俺は、今の俺では考えられない程純情で、正義感に満ち溢れていた。

 世界中の人を守るんだと幼いながらも心に決めていた。その願望は親の背中を見ていたら当然の帰結であったかもしれない。しかし、例え見様見真似の願望であろうと、当時の俺は本気だったのだ。


「おっ、この石綺麗だなあ。蒼に上げたら喜ぶかな」


 母さんに少し遊んできなさいと言われ、田舎の山を走り周りながら自然の空気のおいしさを体全身で味わっていた。目に映る全ての自然が輝いて見え、自分の新しい家族となった妹の為に綺麗な物も集めた。


 とはいえ、ただただ遊ぶだけでは自分の尊敬する両親のようにはなれないと思った俺は、自分の能力を鍛えようと、その力を開放する。


 途端、感覚が研ぎ澄まされると共に、不思議な声が聞こえて来る。


『暖かい! 綺麗!』

『遊ぼ! あっちに行こう!』


「久しぶりだね!」


 俺の視界には、手のひらサイズの人間とは異なる生物が見えていた。

 精霊と呼ばれる彼等は普段はその姿を隠しているが、俺が能力を使えばいつも姿を現しては一緒に遊んでいた。

 ちなみに、精霊の一人が綺麗だと言ったのは、俺の周囲に舞い散る純白の羽の事を指しているのだと思う。どうやらこの羽が彼等にとってのお気に入りのようであった。


 精霊たちと数時間程遊び、そろそろ母さんの元へと戻ろうとした時だった。


『逃げて! 逃げて!』

『来るよ! 恐ろしい大罪が来る!』


 突然、精霊が慌てふためき姿を消す。

 なにがなんだかさっぱりな状態の俺に、不意に声を掛けられた。


「生きのいい餓鬼がいるなぁ」


「えっ?」


 後ろを振り返り男の姿を視認する。

 姿は人間と遜色はない。しかし、その男性の手は血で真っ赤に染まっており、明らかに普通ではない事が分かった。


 幼少ながらも状況を瞬時に理解し、この男性から離れなければいけないと思った俺は、一目散に足を動かして逃走を図る。


「おぉっ! 速ぇえなおい!」


 嬉しそうに嗤う男は、そうは言うものの、瞬時に俺との距離を詰めると、横腹に足蹴りをかます。


「かはっ!」


 明らかに骨が折れた音が聞こえ、俺の体は木々にぶつかる。肺が酸素を欲するが、上手く呼吸が出来ず、苦しみに地面をのたうち回る。


「おいおい、これで終わりじゃねぇだろ?」


 そんな俺を、男は蝿でも潰すように上から足で踏みつける。


「かッ・・・うっ・・・!」


 余りの激痛に目端から涙が零れる。抵抗しようと、左腕を男に向けたところで、この時の俺は生物に攻撃する事に躊躇した。今思えば、本当に甘い、甘過ぎて吐き気のする程善人な少年が、柳 隼人という人物だった。


――これは殺し合いだというのに。


 そして、その躊躇が、男の逆鱗に触れた。


「・・・おい、餓鬼。お前・・・この俺様に向かって躊躇したのか。ははっ、ははははははは! 虫けら風情がこの俺様に? これは傑作だ! ・・・おい、餓鬼――てめえは俺の【憤怒】に触れた、絶望しながら死んでいけ」


 瞬間、男の力が激増する。

 男の足を掴んで離そうと必死に抵抗するも、ピクリとも動かない。そして、自分の体の異常にも気付く。


 痛覚が上昇しているのだ。

 いや、それだけではない。俺の思考の内にあるマイナスの面が大きく増大していく。


「ぐぁああああ!」


「俺の能力は、自分と触れた対象の物理的なものに囚われない要素までもを自由に増幅出来る。どうだ? 絶望の淵に沈んでいく気持ちは? 俺様を愚弄したんだ、絶望の中で死んでゆけ」


 当時の俺にはこの状況を打開できる策も、能力もなかった。脳内に誰かが叫びかけてくれている気はしたが、まだ能力を万全に使いこなせない未熟な状態では、その声を聞く事すらままならなかった。

 思考が負に染まり、抵抗する意思がなくなると、あっけなく男の足が俺の心臓を踏みつぶす。


 自分の命が薄れゆく感覚を味わいながら、俺の瞳から光が消えた。


「ちっ、さっさと帰れば良かったぜ。どっかで憂さ晴らしでもすっか」


 死んだ俺に目もくれず、男は背を向けて去ろうとする。

 が、その足を止めて、おもむろに振り返る。その表情にはありありとこう書かれていた。


『何故、生きている・・・?』と。


 男が見たのは死んだはずの俺がゆっくりと立ち上がる姿だった。

 だが、それは俺であり俺ではなかった。瞳は血をさらに濃くしたような紅に染まり、口の端が吊り上がる。


「・・・ほぅ、まだ楽しめそうだな。俺もやり足らなかったんだ。簡単に死んでんじゃ――」


 鮮血が舞った。

 男は目を見開き、己の右腕を見やる。そこにはあったはずの、あるべきはずの腕が無かった。コンマ数秒後、鈍い音を立てて、男の右腕が宙から落ちる。


・・・


 それからの記憶は残っていない。

 封印とは別に、消え失せたのかもしれない。


 ただ、次に意識が戻った時視界に映ったのは、周囲一面に広がる夥しい血と、泣きながら俺に抱き着く母さんの姿であった。


「ごめんね、ごめんなさいっ・・・こんなに、なって・・・」


 どれだけ時間が経ったのかは分からない。

 ただ、母さんに抱き着かれている間、俺はずっと呆けたように表情を動かさないで、どうしようもない無気力感に包まれていた。


 泣き止んだ母さんは俺から離れると、懐から扇子を取り出し、そっと俺の額に当てる。


「大丈夫よ・・・嫌な事は全部忘れていいの」


 そして、俺は幼少の記憶と、己の能力の記憶を失った。


 これが俺の封印されていた記憶。

 普通に生きていれば二度と開かれることのないパンドラの箱だ。


 しかし、そのパンドラの箱が今、開かれた。







 倒れた隼人を中心に紅と漆黒が入り混じったオーラが吹きあがる。

 その中には、ゆっくりと立ち上がる隼人の姿があった。その瞳は深紅に染まり、服装は黒い装束に変化する。体中にあった傷は消え去り、腹部に空いていたはずの風穴も完全に再生した。


 その光景に破壊神(シヴァ)は僅かに目を細める。


「・・・これは聞いていないぞ、知略神(ロキ)


 破壊神は何故隼人が聖を喰らう霧の中で動けているのかと疑問を持つ。


(霧の中では奴等の権能を使う事は出来ないはず。ならばこちら側に裏切り者が居たか?)


 しかし、幾ら思考しても不審な行動をとっている神は思いつかない。


「いや、まさか・・・」


 あらゆる可能性を思索する中で、ある可能性が上がり、思わず口元に手を持っていく。

 限りなく零に近い回答だ。しかし、一度思いつくと、そうなのではないかという思いが強くなる。


「――貴様の持つ本来の能力は、こちら側か」


 普通では考えられない。

 選定者に選ばれる存在の意義は、ある()殿()()()()だからだ。信頼が無い邪の力を持つ存在を、その役目に立たせるのは、自爆する可能性もある大博打だ。一瞬、冷静に考えて、その思考を放棄しようする。


 しかし、破壊神の言葉に隼人は答えない。


「はぁ・・・」


 怠そうに吐息を吐き、指抜きグローブを付けた手で頭を掻く。

 自分が記憶を失っていた事実に呆れ、幼い頃の半端な理想を掲げた姿に苛立ちを覚えていた。


「最悪な目覚めだな・・・。帰ったら全力で土下座して許してもらうしかねえか。つうか、指抜きグローブって中二病かよ」


 自分の少々痛々しい恰好に渋い顔をした後、眼前の存在に目を向ける。


「「「グルァ――」」」


「邪魔だ」


 犯罪者達が隼人に襲い掛かり、次の瞬間、隼人が左手で軽く薙ぎ払う動作をすると、襲い掛かった全ての犯罪者の体が細切れに分解された。その死体には目もくれず、隼人は足を進め、異様な雰囲気を放つ存在の数メートル先で足を止めた。


「まさか神と相対する事になるとはな」


「あの神共がなにを考え貴様のような者を選んだかは知らぬが、我には勝てぬ。無駄な足掻きはせずに潔く散れ」


 そう、隼人が息を吹き返そうとも、神と相対している事実に変化はない。

 神の権能も使えぬ状態で、半端な力では手を触れる事すら不可能な相手を前に隼人は、


――口の端を吊り上げて、更に一歩踏み出す。


「いいなあ、リハビリには丁度いい。せめて蒼に言う謝罪の言葉を考え終わるまでは付き合ってくれよ?」


「ぬかせ、人間風情が粋がるなよ」


「はっ」

「ふっ」


 何処にでもある商店街の一角。

 神に、人間が挑む。


次話は月曜予定です(*‘ω‘ *)

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終焉都市の雑草
連載開始です(*´▽`*)
神々の権能を操りし者2
― 新着の感想 ―
[一言] 待ってました!隼人はこうでなくっちゃ!
[一言] 多重能力者か
[一言] 次話が待ち遠しいです 次話の更新がこの頃の楽しみになってます 能力2つを持ってるなら理論上不可の多重能力者になっちゃいますね! でもそれをやってのけるのが主人公の特権ですね! その前に隼人の…
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