112話 笑って?
すいません。ちょい短いです(。-人-。)
人狐? の暁さんと別れた後、する事もないのですぐに家に戻った。
玄関のドアを開けると、黒猫のルイが待っていたので、その小さい体を抱きかかえてリビングに入る。
「あっ、そうか。皆出かけているのか」
そう言えば蒼は今朝用事で出て行ったなと思いながら、音が無いのも寂しいのでテレビの画面をつける。因みに父さんが何故家にいないのかはよく分かっていない。おそらくなにかしらの仕事があるのだろうと思う。
『今朝未明、犯罪者収容所が何者かの襲撃を受け、百名を超える犯罪者が脱獄したと・・・』
「物騒だな」
「にゃ~」
テレビをつけたはいいものの報道されている内容は最悪だ。
世界的に見ても非常事態だというこのご時世に、犯罪者にも手を回さなければならないなど、犯罪者は一体なにを考えているのか理解に苦しむ。
犯罪者の心理を理解しようと思う事がまず間違いなのかもしれないが、やはり問題があるのなら解決の方法もあるのではと考えてしまう為、どうしても考えてしまう。
「人間が真に手を取り合える日は来ないんだろうな。・・・ルイから見た人間はどう見える?愚かで滑稽な肉塊か? それとも救われる価値のある高潔な生命か?」
「にゃ、にゃ~」
「ふっ、ごめんごめん。言っても分からないよな。ほ~ら、撫でまくってやろう!」
少し気が沈みそうになった空気を打ち破るように、ルイの体をワシャワシャと撫でまくる。
気持ちよさそうに目を瞑る姿がなんとも可愛らしい。動物界のアイドルと言われる所以も理解出来るというものだ。
ルイとの癒しタイムもそこそこ、玄関のドアが開く音が聞こえた。
「ただいま~」
蒼の声だ。
どうやら用事はもう終わったらしい。時刻を見ると午後十八時を指している。中学生が出歩くのは、特に可愛らしい女子が出歩くには少々危ない時間だというのが気になるが、ここ一週間で見た目よりもしっかりしている事が分かったので、まあ大丈夫だろうと思う。
「お帰りなさい」
「あっ、お兄ちゃん。ただいま~ 今日は疲れたよ~」
リビングのドアを開け入ってきた蒼は、俺の姿を見ると安心したように表情を緩め、そのままソファーに倒れ込む。
確かに蒼の顔色はあまり良好には見えない。額に浮かぶ玉の汗を見ると、相当疲労しているであろう事が分かる。
「大丈夫か? ちょっと待ってろ、水持ってくるから」
「ああ、いや大丈夫大丈夫。久しぶりに体動かしてちょっと疲れただけだから、すぐに復活するよ」
いや、その疲れ具合は少々ではない気がする。
蒼の言葉を無視して、素早くコップに水を汲み手渡す。
「もう~ 大丈夫って言ったのに」
と、口を尖らせながら文句を言ってはいるが、やはり相当疲れが溜まっていたのか、渡した水をすぐに飲みほして、ふぅと息を吐く。暁さんが言っていた封印について聞きたかったが、疲れている様だしまた今度にしようかと考えていると幾分か顔色が良くなった蒼が口を開く。
「お兄ちゃんは気分転換出来た?」
「ああ、少しだけだがスッキリできた気がする」
「そりゃ良かった、実は今日の帰りに温泉のチケットが当たったんだけどお兄ちゃんも一緒にいかない?」
「突然だな、まあいいけど」
温泉か・・・
このご時世に温泉に行ってもいいのだろうかと少し罪悪感が湧く。なんだか俺の周囲だけ怪物とは無縁の日常にいる気がする。
街の被害が少ない他に、俺自身が怪物に襲われた記憶がないからかもしれない。
以前の俺はネットに書かれているような恐ろしい存在に出会ったことがあるのだろうか。
だとすれば、おそらく一目散に逃げたのだろう。俺は記憶喪失ではあるが、俺という存在の根幹が変わったわけではないと思う。ならば、考えただけでも震える俺が怪物を目の前にして戦えるわけがないのだ。それが例え、圧倒的な能力を俺が持っていたとしても、その事実は変わらないだろう。
「また、面倒くさい事考えてるのかい?」
ルイとは反対側の膝に頭を乗せた蒼が、俺の顔を覗き込むように仰向けに寝転がり、伸ばした両手で俺の頬を挟む。
「なにひゅるんだ」
「まあまあ、笑いたまえよ。笑顔笑顔。嫌な事は全部忘れちゃおう!」
にひっ、と可愛らしい笑みが視界に入り込む。
「ここら辺のゴミは片づけ終わったから、また気分転換にでも行く?」
なんで気分転換にごみが関係あるのだろうと疑問が湧く。
なにか体に害がある物が捨ててある訳でもないはずだ。それとも俺が知らないだけだろうか?
「ゴミってなんだ?」
「うん? ゴミはゴミだよ。存在するだけでお兄ちゃんの体を蝕み、最悪死に至らしめる可能性のあるこの世の絶対悪だよ。大丈夫、安心して。私が根幹から消し去ったからこの辺は安全なはずだよ」
どうやら蒼と俺とのゴミに対する認識が隔絶しているようだ。
蒼が環境大臣にでもなった日には世界から全ての物が消え去ってしまうかもしれない。
「ふっ、ありがとうな」
言ってることはよく分からないが、俺の為に行動してくれた事には感謝の気持ちしか湧いてこない。自然と表情が緩んで笑みが作れていた。
「あっ、ちなみに温泉は明日だから」
「はやっ?! 今聞いたばっかりなんだけど!」
「まあまあ、一泊したら次の日には帰るから。そんなに用意するものもないでしょ?」
「確かにそうだけど・・・」
「うんうん、じゃ、そういう事で。私はお風呂で汗を流してくるから」
そう言うや否や、風を置き去りにする速度で蒼は風呂場に向かう。
「・・・ははっ、落ち着きがないなぁ。取り敢えず明日の用意でもするか」
頭を掻きながらリビングを出て、少し軽くなった気分で自室に向かった。
◇
激しい頭痛に思わず眉をひそめてしまう。
「はぁ、はぁ・・・」
頭にシャワーを被りながら壁に手を付いて息を整える。
仕方がなかったとはいえ、今回は能力を使い過ぎた。結果として、周辺の敵を一掃する事は出来たが、体の負担が予想以上だ。
「でも、強い人はいないみたいで良かった。一人でもいたらちょっとまずかったかも」
強い人、というのは私に一度でも攻撃を返せた人の事だ。
殺傷能力の高すぎる私の能力を回避したり、防いで攻撃を返せた人は一人もいなかった。まあ、それこそ特殊対策部隊クラスでないと私の能力は防げないのだから、はなから存在するとは思っていなかったのだが。
「お兄ちゃんには少し悪いことしちゃったかな」
今日誘った温泉についてだ。
あれは偶々当たったものではない。
今日の掃討で得た情報に、どうしても遠方に行かないと倒せない敵がいる為、準備したものである。
万全でない私の能力では、その場所に移動するのに多少なりとも時間が掛かってしまう。しかし、移動している間にお兄ちゃんが襲撃されでもしたら本末転倒だ。だから、お兄ちゃんを温泉に誘って途中で敵を潰そうと計画した訳だ。
相手からしたら、わざわざ標的が自分から足を運んでくるのだ。
必ずなにかしらの行動には及ぶはずだ。
「ふっ」
鏡に笑っている自分の顔が映る。
大丈夫。
お兄ちゃんが気付く間もなく全て終わらせるから。





