102話 一位
怪物を倒したことで、異空間が泡のように消え去り、気付けば元の世界に戻っていた。
「ふぅ、疲れた。久々に力使った気がするな」
少し痺れる体を無理矢理に伸ばす。
ジャックさんは学園の被害者の人達を病院に送る手配をしているようだ。誰かとお近づきになれたらと思ったが、そんな場合ではないな。
時刻は十時頃といったところか、太陽が高い位置にある。
手伝いも終わったことだし、これからどうしたものかと考える。
ジャックさんの言っていた面白い場所とやらに行って、【強欲】の吸血鬼に会うのもいい。その吸血鬼の出すという条件が少々気になるところではあるが、俺の知りたい情報を入手できるのなら多少の犠牲は付き物だと考えた方がいいだろう。
いや、その前に何か食べるべきか。
朝もあまり食べていなかったので、若干空腹気味だ。
「ん? 地震か?」
ふと、地面が揺れる。
そこまで大きい揺れではなかったので、あまり気にはしなかった。
しかし、
「・・・長くないか?」
揺れが全く収まらない。二十秒、三十秒と続き、ようやくこの揺れがただの地震ではないのかもしれないと気付く。
「ジャックさん、この揺れって」
「あぁ、これはマズイかもしれない・・・。皆さん、お疲れのところ申し訳ありませんが、病院より先に避難所に移動しましょう」
皆一様に困惑の表情を浮かべる。
その時、全員のスマホから警報の音が鳴り響いた。怪物の出現時に発せられる緊急のアラートだ。これは近く(半径二キロメートル以内)に怪物が出現した時にしかなる事はない。手早くスマホをポケットから取り出し、出現位置を確認する。
「馬鹿なっ?!」
ジャックさんが思わずといった風に叫ぶ。
俺も目を見開き、手元のスマホを凝視する。そこにはイギリス全土の地図が載っており、怪物が出現した位置に赤く点が表示される。
そして現在、イギリスのほぼ全域に赤い点が存在していた。
いや、イギリスだけではない。
流れてくる情報から、この現象が世界全体で起こっている事が分かる。
「少年! 僕は彼女達を避難所に預け次第、怪物の掃討に当たる! 君は己の為すべきことをするんだ!」
ジャックさんはそう言い捨てると、転移の力を持った剣を召喚し、彼女達と共に避難所へと転移した。
俺は一心不乱に情報を検索する。
何処かに騒動の元凶が存在すると信じて。
そして、その元凶はすぐに見つかった。ただ、俺の心情は元凶が分かった事の安堵ではなく、叫びたくなる程の絶望の方が遥かに大きかった。
「冗談じゃねえぞ・・・テュポーンだと?」
現在、テュポーンがアフリカ大陸から出る為、海へと移動中であるとの速報が書かれている。
という事は、世界中に出現している怪物共と、この振動はテュポーンの仕業か。
怪物の強さはまちまちで多くがF、E、ランク級の怪物が占めているようだが、一国に数体B、Aランク級の怪物の出現を確認しているらしい。
どう考えても、特殊対策部隊の数が足りない。
彼等は一騎当千の猛者ではあるが、一国に五人から多くても九人しかいない。確かに救急隊員であればCランク級の怪物までなら対処は可能かもしれないが、Bランクからは難しい、Aランク級では確実に全滅するだろう。
「くっ!」
焦りで思考が乱れる。
俺のすべきことはなんだ? 当然怪物は倒さなければならない。しかし、それよりも俺は家族を守る事の方が大切だ。
「・・・日本に戻らないと」
このままでは蒼が、危険だ。
早まる鼓動を押さえつけ、能力を使おうとした時、スマホから電話がかかってくる。
「父さん?」
スマホには俺の父親の表記が映し出されていた。
このタイミングでの電話に、俺はなにか事態が好転しないかと藁にもすがる思いで通話のボタンを押す。
「父さんそっちは大丈夫?」
『おう、俺の方は大丈夫だ。今は日本に一旦帰国しているから蒼の面倒も俺に任せろ』
「日本に戻ってるのかよ!」
どうやら蒼の心配はないようだ。一先ず安心する。
『それにしても日本の特殊対策部隊は優秀だな。面倒な怪物の出現を分かってるような動きで瞬殺していってる』
そうか、菊理先輩の【予言士】の能力! あれがあれば厄介な怪物の出現を前もって知る事が出来る。
『ようするにだ。少なくない犠牲は出るだろうが、お前の大切な人は安全で、場合によっては俺も介入する。だからお前は元凶を叩け!』
「犠牲が・・・出るのか」
『そうだ、さすがに犠牲が出る。これは変えようのない事実だ。しかし、おそらくだが元凶を叩くことでこの怪物共は消えるはずだ。一般の怪物達と出現の仕方がまるで違うからな。だから隼人、被害を最小限に抑えたいのなら一刻も早く元凶を始末する以外にない』
・・・それが最善か。
「分かった。父さん、皆の事は頼む」
『ああ、任せておけ。隼人、死ぬなよ』
「父さんもな」
それだけ伝え、俺は通話を切った。
その直後に統括支部より俺宛、というよりはおそらく絶対者全体に向けての通知が来る。内容は、テュポーンの討伐。俺は今から討伐に向かう事を返信しスマホをポケットにしまう。
「行くか」
相手は未討伐レートSSランクの怪物だ。正直出来る事ならば戦いたくない相手だが、戦わなければ俺の家族が、知人が危険に晒される。
ならば戦わなければならないだろう。相手が何者であろうとも、大切な人を俺は守る為ならば俺は躊躇わない。それだけは変わらない。それだけが俺の戦う理由だ。
◇
天高く聳え立つ龍を目掛け、海上から大陸へと戦艦が砲を向け砲弾を放ち続けている。
「時間を稼ぎにしかならなくとも奴を押し留めろ! 必ず救援は来る! それまでの辛抱だ!」
現在テュポーンを攻撃しているのは、テュポーンが動き出した時に備え配備された連合艦隊だ。世界中の科学者と強力な怪物の素材、更には特殊な能力を用いて造られた艦隊は一隻でAランク級の怪物を仕留める事が可能だと言われる程の戦力を誇っている。そしてその艦隊、約百隻がテュポーンへと総攻撃を仕掛けているのだ。しかし、
(硬すぎるっ!)
テュポーンは砲撃の直撃をものともせず前進を続けている。
一歩進むごとに船が大きく揺らぎ、相手と自分の質量差に船員の口が引き攣る。
「煩わしい」
遥か頭上から僅かの憤怒を含んだ声が響いた。
そして彼等は見る、テュポーンの口から太陽かと見間違うほどの炎が吐き出されるのを。
「退避ぃいいいい!!!」
指揮官であろう男が叫んだ次の瞬間、業火の熱線が戦艦を包み込む。
衝撃で波が荒れ、戦艦が大きく揺れる。
「うっ・・・じょ、状況は」
指揮官の男が額から垂れる血を拭いながら状況を確認する。
船員はすぐさま状況を整理して報告しようとするが、その手が震えている。
「そ、そんな・・・」
「状況はどうなっているっ!」
「くっ・・・攻撃周辺にいた五十二隻の戦艦は通信途絶!現存は十三隻です!」
「・・・残りの戦艦に通達。任務は継続、何としてでも奴を押し留めろ」
「艦長っ!」
「分かっている! だが、ここで我々が足止めしなければ次は一般市民が、我々の家族が奴の攻撃を受けるかもしれんのだ! なんとしてでも時間は稼ぐ、命に代えてもだ!」
艦長と呼ばれた男は震える手を強く握りそう叫ぶ。彼の口からは、血が滲み、瞳は怒りに満ちていた。戦艦から海を見ると、テュポーンの熱線が直撃した場所が大きく屠れ、海に巨大な穴が空いている。
そして再度、艦長の指示通りに戦艦の砲撃が開始された。
一分でも一秒でもいい。その時間で戦況が大きく変わるのならこの命を懸ける価値はあると、全員が死に物狂いで攻撃する。
「愚者が、それ程死にたいのならば望み通り塵も残さず消してやろう」
テュポーンが口に炎を収束させる。
「全艦退避だ!」
「間に合いません!」
死の息吹が戦艦を呑み込もうと襲い掛かる。
全員が己の死を自覚し、僅かの時間に今までの過去を思い浮かべる。
艦長はやり切ったと目を瞑り、口に笑みを浮かべる。そして最期ならばと、
「トカゲ風情が人間を舐めるなよっ!」
叫ぶ。
俺達は仕事は果たした、後は九人に任せると、その背中を少しでも後押し出来るようにと。
「大丈夫じゃ」
戦艦を狙っていた熱線が、突如として出現した雷槍によって相殺される。
戦艦に搭乗している船員は驚愕に目を見開き、声のした方へ顔を向ける。
「・・・すまぬ。遅れた」
そこには空に浮かぶ、白髪の男性がいた。
とうに齢は六十を超えているように見えるが、その老人の纏う覇気は衰えを微塵も感じさせない。
「あぁ・・・」
艦長がその瞳から涙を零し、船帽を深くかぶる。
(・・・皆よ、我々は無駄ではなかったぞ)
「後は任せい」
老人は戦艦の前へと進み出る。
「一位に敗北はない」
老人の名前はアラン・バルト。
絶対者の一人にして世界の頂点に立つ男。
その能力は【全能神】。
全能の力を持った正真正銘の最強が、テュポーンと相対した。
う~ん、まだちょい忙しいので次話は水か木曜です(*´▽`*)





