99話 二人
骨の怪物の前面に出ている一際大きな骨の頭部がカクンっと、九十度回転する。
『主様が作られた我が虫けらであるはずがないだろう? 分を弁えよ、人間』
言い終わると、奴の背後から四つの白い腕が生え、その手には禍々しい鎌が握られていた。一本一本が大人三人分程度の大きさを誇っており、正面からまともに受けるのも難しいだろうと判断する。
しかし、相対するジャックさんは微塵も臆することなく前に進み出る。
・・・そして突然、彼が立っていた地面が陥没し、姿が消えた。
ギインッ!と甲高い音が鳴り響く。
ジャックさんの姿は既に怪物の正面に移動しており、怪物の鎌と聖剣とが衝突する。
凄まじい衝撃波が広がり、地面が粉砕する。
学園からは学生の悲鳴が上がり、教師が下がるよう警告しているようだ。
「ここは危険です。皆さんは学園の中に避難していてください」
「は、はい!」
俺も近くにいる人達に声を掛ける。
直接の攻撃が無くてもこのレベルの戦闘では飛び火で死にかねない。
彼女達が全員学園に避難した事を確認すると、俺は再度戦闘に目を移す。
(あの怪物、ジャックさんとまともに剣を交えてやがる。相当強いな。だが、ジャックさんにはまだ余裕があるみたいだから大丈夫か)
出来る事なら俺も出て瞬殺したいところだが、今はそれも難しい。
今も尚隠れ潜みジャックさんを殺そうと息を殺している怪物。
俺がもしこの場から離れ戦いに参戦すればそいつが学園に避難している人達を人質に取る可能性がある。俺達が来る前に何故人質を取っていなかったのか疑問だが、何かしら姿を現す為の条件でもあるのかもしれない。
ジャックさんが来たことでその条件を満たしたのだと考えれば、俺がここを離れる訳にはいかないのだ。
『うんうん、やっぱりしぶといね』
『増やす? 増やしちゃう?』
『鎌が大きすぎて邪魔をしてしまう。ここは逆に力を凝縮すべきだ』
『あいつすばしっこいからあしをはやくしよう!』
このままではジャックさんに勝てないと踏んだのか、怪物が動きを止め頭部同士が談義し合う。
そして、四本あったうちの二本の腕が体に戻り、体の形態が変化する。
腕はそのままだが、上半身が今までより細くなり、代わりに足に削ぎ落された骨が集約されていく。人間のように二本の脚で直立し、足だけが異様に長くなる。
「うへぇ、SAN値が下がりそう・・・」
とりあえず俺はもう一体を気にしておけばいいだろう。
ジャックさんも気付いてはいるだろうけど用心はしておくに越したことはないしな。
◇三者視点
「ほう?」
(面白い変化だ。敵に合わせて成長しているのか?戯言を言うだけはあって無駄に能力が高いな)
ジャックの正面にいた怪物の姿が消える。
背後に気配を感じ、右手に持つ聖剣を頭の上に構える。衝撃が聖剣に伝わり、ジャックの立つ地面が爆ぜる。
(速いな・・・しかし、対処できない程ではない)
次いで、下半身を両断するように横薙ぎに振られた鎌を、後ろを見ることなく上体を倒す事で避け、流れるように後方に体を捻り、下から一撃を放つ。
が、その一撃を怪物は片足で受け止めた。
『効かないよ』
『弱い? 弱い?』
『やはり蝿と変わらんな』
ジャックが僅かに眉を動かす。
態勢が十分でないとはいえ、威力的には十二分なものであったはずだ。しかし、結果は足一本で受け止められている。全ての衝撃を、怪物の異様な足が全て吸収しているのだ。
「囲え、リブ」
怪物の脚との打ち合いを危険だと判断したジャックはすかさず別の剣を召喚し、右手で握る。
一瞬にして怪物を結界が囲うが、怪物が脚を地面に叩きつけると、まるで紙切れだと言わんばかりに結界が崩壊する。
地面を巻き込みながら薙ぎ張るように横薙ぎにされた怪物の脚がジャックを襲い、大きく吹き飛ばす。
「くっ! 結構威力高いなあ」
攻撃を受ける間際、聖剣とリブの結界で威力を減衰させたはずだというのに、体を吹き飛ばされる程の威力に感嘆の声を吐き出す。
ジャックを追うように怪物が距離を詰める。
墜落地点に先回りした怪物が振るう鎌を空中で結界を支点に体を回転させる事で回避する。顔すれすれを鎌の刃が通り、斬られた前髪の先がはらりと落ちる。
更に、ジャックが地に足を付くと共に挟み込むように左右から鎌が振られる。
それを聖剣とリブを使い鎌を受け止めるが、
『死霊の息吹』
怪物の胴の部分が裂けるように開き、開いた場所から悍ましい霧状の攻撃が繰り出される。両手が塞がっている状態での超至近距離からの攻撃。ジャックは軽く舌打ちすると、左手の不滅の刃の聖なる波動で攻撃を中和しようとした。
しかし、その間際ジャックの後ろで雷の落ちる音が響く。
途端、息の苦しくなる程の威風が空間全てを圧し潰すかのような錯覚が空間に立つ全ての人間を襲った。
このタイミングで、もう一体の怪物が姿を現したのだ。
(敵ながら完璧なタイミングだなっ?!)
聖剣の力を使おうとも防げるのはどちらか一方。
両方防ごうとすればどちらも威力が足りずに防ぐことは不可能。
ジャックは内心で自分の失態に舌打ちすると、前面からの攻撃は生身で受け後方の攻撃を防ぐ選択を取る。実力が未知数の攻撃の方が危険だと判断したのだ。
ジャックは首を後ろに回し、後ろの怪物を視界に入れる。
それは獅子であった。
黄金に光り輝く肉体を持ち、その体を青電が走っている。体長は一般の獅子の五倍といったところか、ジャックを遥か上から見下ろしている。
大木と変わらぬ強靭な腕が、その先の青電を帯びている爪がジャック目掛け振り下ろされる。その速度が速すぎるあまり空気の壁を破壊する爆裂音が響き渡る。
「死ね」
重く紡がれた宣告。
この間合いで己の速度を上回る事など不可能であると確信している、絶対の自信を持った言葉。
その宣告を聞き、己に迫る爪を見たジャックは・・・・・・優しく微笑んだ。
獅子がその笑みに疑問を抱くと同時、その回答が否応なしに付きつけられる。
――ようやく姿を現したか。
声が聞こえた訳ではない。音が聞こえた訳でもない。
しかし、己の本能が全力で訴えかける。
逃げろと、このままでは全てが水泡に帰すと。
獅子はコンマ一秒にも満たない間で己の絶対なる速度と本能を天秤に懸け、後者を選んだ。
攻撃の手を止め、全力で上空に飛び上がる。
そして見た、己の背後にいたものの姿を。
陰で表情までは見えないが、二つの双眼が暗い暗闇の中、淡く光り、体を走る紫電が幻想的な尾を引いている。腰には一刀の刀を携え、既に抜刀のモーションに入っていた。
「雷切」
空間が裂けた。
地上の光景を見た獅子は初めそう見えた。同腹の攻撃をいとも容易く消し飛ばし、背後の同腹の体も同じように両断される。
既に乱入者は刀を納刀しており、再度抜き放つモーションに入っている。
狙いは、当然上空の獅子。
上空にいては危険だと判断した獅子は宙を蹴り、超速度で地面に降り立つ。
乱入者――隼人は地面に降り立った獅子に肉薄し、千鳥を抜き放つ。
「紫電一閃」
対する獅子も爪で攻撃をいなし、お互いに見合う形となる。
僅かの呼吸の後、両者が激しくぶつかり合う。
空間内部を紫電と青電が駆け巡り、通った地面が熔解する。
たった四秒、しかし、その中で数十、もしくは数百の攻撃を互いに打ち合った隼人と獅子は、一旦攻撃を止め、己のパートナーの傍に戻る。
隼人の両断した骨の怪物はその肉体を呻かせながら再生していた。
「・・・えぇ、わざわざ待機してたのに一体も殺せなかったんですけど」
「いやいや、僕としては助かったよ。あのままでは一撃貰っていただろうからね。それよりも協力してくれるって事でいいのかな?」
「はい、ジャックさんだけでも負けないでしょうが。彼女達を早く安心させてあげたいですからね。はぁ・・・折角買ったアヒルの被り物が燃え尽きちゃいましたよ」
少し気に入っていた被り物が消えた事に少し気分が落ちている隼人を横目に見るジャックは、頼もしい後輩の姿に笑みが零れる。
『あいつ、なに?』
『人間のくせに我に傷をつけるとは・・・万死に値する!』
『腕を引きちぎり、両足も引きちぎって馬の餌にでもしようか』
『たのしそう! たのしそう!』
完全に再生した骨の怪物は怒りの余り全身の骨がカタカタと震えだす。
対照的に隣の黄金の獅子は油断ならない瞳で隼人を凝視している。
「そう言えば君達は絶対者を殺しに来たんだっけ?」
ジャックさんが意地の悪い笑みを浮かべながら怪物に言葉を投げかける。
「いや~ 参った参った。君達の思惑通り誘いに乗ってしまったよ」
ただ、この結果を怪物は予想していなかった。
それもそのはず、絶対者は基本一人だからだ、強すぎるあまり一か所に集まる事をしない。世界に散らばり、単体にて国を救う存在。
しかし、ただ一人。
その力が未知数故に世界からの要請が未だ来ていない絶対者が存在している。
世界初、能力数値『0』の絶対者が、
「それで、絶対者二人を相手にしても殺せる算段があったりするかい?」
次回は共闘です(*´▽`*)





