第99話
清水-
総司と可憐は、縁側で体を寄せ月を見上げていた。
総司「…考えてみれば、こうして一緒に月を見るのは初めてでしたね…」
可憐は「ええ」と答えた。
二人に涙はなかった。二人きりの時間を涙で終えたくなかったのである。
二人は目が合うと、その度に唇を重ねた。重ねては強く抱き合った。少しでもお互いのぬくもりを感じていたかった。
昼間は、いつも待ち合わせた川辺から清水まで歩いた。時間のことを心配することもない。二人は思い出話にふけりながら、足が棒のようになるまで歩き回った。
総司「…紅葉が見られなかったのが残念でしたね…」
総司が、可憐の背中からだきすくめるようにして呟いた。可憐は頷いて、目を閉じた。
総司「疲れた…?」
可憐は首を振った。そして総司の腕を緩めると、総司に向き直り、胸へ頬を寄せた。
可憐「中條さんや礼庵先生に、あれだけご迷惑をおかけしながら、お礼も言えませんでしたわ。」
総司は微笑んで、その体を抱いた。
総司「私から伝えておきます。きっと二人もわかってくれていると思いますよ。」
可憐は、総司の胸の中で頷いた。
可憐「…中條さま…総司さまからの文を届けに来てくださったとき、泣いておられたんです…。お顔を見せないようにして走っていってしまわれて…。最後にあの方の笑顔を見られなかったのが心残りですわ。」
総司「また、町中で会うこともあるでしょう。その時に声をかけてやってください。」
可憐「総司さまとお会いしたときは…?」
総司は、どきりとした表情で可憐を見た。可憐も、じっと見つめ返している。
総司「笑顔を見せてください。それだけでいい…。私も返すから…」
可憐は微笑んで「はい」と答えた。
総司「愛しています。今までも、そしてこれからもずっと…」
可憐は「私も」と答えた。総司は、想い人の体を強く抱きしめた。
総司「体は離れても…心はこうして、いつも寄り添っていることを忘れないでいてください。」
可憐は頷いて、総司を見上げた。総司は、すかさずその唇を塞ぐ。
その時月が翳った。総司は唇を離して、ふと空を見上げた。
総司「…もう寝ましょう。明日は早く起きて散歩にいかなきゃ。」
可憐が頷いた。二人はお互いを支えあうようにして立ち上がり、床のひかれた部屋へ入った。
二人はためらわず同じ床へと体を入れる。そしてじっと抱き合ったまま見つめあっていた。
総司「おやすみ…」
総司がそう言って唇を重ねた。可憐が総司の体に手を回した。二人はそのままずっと唇を重ね続けていた。




