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第95話

新選組屯所前-


中條は今にも雨が振り出しそうな空を見上げた。


中條「おあつらえむきの雲だな…。…可憐様の家についた頃には、大雨になって僕の顔は見えないくらいになっているだろう…」


幼い頃から畑作業をしてきた中條は、雲を見ればいつ降り出すのかわかる。

中條はとぼとぼと歩き出した。いつもなら早足で向かっていた場所…。当然のように、今回は足取りが重い。

そして、雨が降ることがわかっていながら、傘を持って来ていなかった。


…いつも可憐の笑顔を見るのが、楽しみだった。今日も笑顔を見せてくれるだろう。

その可憐にいったいどんな顔をして会えばいいのか。


中條にとっても、可憐とは、たくさんの思い出がある。


中條自身が刺客に狙われるようになって、文を運ぶことをやめさせられたこともあった。

つい、可憐と長話をして、総司に早く帰ってくるようにと怒られたこともあった。

中條が倒れた時、可憐から文をもらった。そのお礼におはぎを作って持っていった。その文は、今も大事に持っている。

それから……


雨がぽつぽつと振り出してきた。中條の思った通り、可憐の家につく頃には大降りとなっていた。


可憐は中條がずぶぬれになって来たことを驚いていた。

中條はぶっきらぼうに文を差し出すと、頭だけを下げて踵を返した。

可憐が呼びかけたが、振り返りもせずに歩いた。

中條の目に涙があふれ出る。もう会いに行くこともない。雨に濡れるのに任せて泣いた。


しばらくして、後ろから走りよってくる下駄の音を聞いて、中條はぎくりとして立ち止まり振り返った。

可憐が傘を持って走ってきている。

中條はその可憐を振り切る勇気が持てずに、その場に立ちすくんでいた。

可憐は中條に傘を差し出し、差して帰るように言ったが、ふと中條の赤い目を見て「泣いておられるのですか?」と尋ねた。

中條は唇を噛み、涙を堪えた。


中條「…傘を…お返しできないので…」


可憐が「えっ?」と言った。その何も知らない澄んだ瞳を見て、中條はたまらず背を向けて走り出した。



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