第92話
新選組屯所 土方の部屋-
土方はぼんやりと、立ったまま外を眺めていた。
土方「…あまりにも酷過ぎる…」
総司は想い人に会いに行くと元気になった。そんな総司を土方は「わかりやすい奴だ」といつも笑って言ったものである。
まとまった休みをやると言いながら、何かと忙しくなり先延ばしになっていた。
総司自身も想い人に気兼ねして頻繁には会っていないはずである。
そのこともひっかかっていた。
ただでさえ気弱になっている総司に、想い人と別れさせるのは酷ではないかと土方は思った。
しかし土方でさえ、近藤に逆らうことはできなかった。
判断は総司自身に任せるしかないだろう。何もしてやれない自分にも腹が立っている。
土方は総司の部屋へと向かった。
部屋の外から呼んだが、返事がない。
土方「入るぞ。」
そう言ってからふすまを開いたが、いなかった。
土方「…どこへ行ったのだろう?」
道場から声がしたので、そちらに向かった。総司がいる。
土方に気づいた隊士達が撃ち合いを中断して、土方に礼をした。土方は「気にするな」と言って、続けさせた。
土方「…総司…!」
総司は呼ばれて、汗を拭いながら近づいてきた。
総司「どうしました?…出動ですか?」
土方「いや…どうしたのかと思ってな…。確か今日はおまえの番じゃなかっただろう?」
総司「最近、調子がいいので、久しぶりに汗をかきたくなったんです。」
土方「…そうか…それは結構…」
総司「…で、何か…?」
総司が無邪気な笑顔を見せてそう尋ねた。土方はその総司の笑顔を見て、何か自分が悪いことをしているような、妙な気になった。
土方「いや…なんでもない。…あまり無理するなよ。」
総司「はい…?…それだけですか?」
土方「…それだけだ…」
総司「…なんだかいつもと様子が違うように思うんですが…どうかしましたか?」
土方「なんでもない!」
土方はついそう怒鳴って、その場を後にした。
総司はきょとんとした目をして、そんな土方を見送っている。
土方(…すまん…総司…)
どうしようもない罪の意識に、土方は苛まれていた。




