第91話
新選組屯所 二日後-
総司が少し気力を取り戻したように見え始めたその日、土方は近藤に呼び出された。
何の話かはだいたいわかっている。土方は近藤の部屋の前でひとつため息をついた。
土方「…近藤さん」
近藤「おお、入ってくれ。」
土方は障子を開いて中へ入った。そして、固い表情で近藤の前に座った。
近藤「歳さん…他でもないんだが…」
土方「……」
近藤「総司のこと…そろそろ話をしようかと思っているんだ。」
土方「…想い人のことか…?」
近藤「…ん…」
土方「ちょっと待ってくれ。総司はやっと元気になり始めた頃だ。もう少し待ってやってもいいんじゃないか?」
近藤「思うんだが…こういうことは、引き伸ばすとそれだけ苦しみが大きくなると思うんだ。」
土方「…確かに…そうだが…」
土方はまだ気が進まなかった。…が、そのまま何も言葉が継げずに黙り込んでしまった。
近藤「…できれば、この二三日中にも話をしようと思うんだが…。」
土方「なぁ、近藤さん…どうしても、別れさせなければならんのだろうか。」
近藤はうなずいた。もう決意を固めた表情をしている。
近藤にすれば、この辛い役目を早く終わらせたい気持ちもあるのだろう。
想い人の親から、近藤に何度も文が届いていることも、土方は知っていた。
土方「…どうして…あいつだけ…」
近藤「…ん?…」
土方「…いや…今更こんなことを言ってもはじまらんが…どうして、総司だけこんな辛い目に会わねばならんのだろう…そう思ってな…。」
近藤「…歳さん…」
土方「…何よりも…病が憎い…。」
二人は黙り込んだ。近藤の大きなため息が、静寂した部屋に響く。




