第90話
新選組屯所 副長室--
総司が出ていった後、土方が頭を掻きながら言った。
土方「助かったよ。近藤さん。…一時はどうなることかと思った。」
近藤「私も外で聞いていて、冷や冷やしてたんだ」
近藤がそう言って笑った。
土方「しかし、さすがだな…。私と総司とでは、どうしても喧嘩になってしまう。…あいつは近藤さんの言うことなら、ああやって素直に聞いてしまうんだからな…」
近藤「…総司は、体力だけでなく、気力まで落ちてしまっているようだな…」
土方は、はっとした表情をした。
近藤「歳さん…。いつも、にこにこしている総司が、最近は今みたいな難しい表情をすることが多くなったと思わんか。」
土方「…確かにそうだな…」
二人は黙り込んだ。しばしの静寂が訪れた。
近藤はふーっとため息をついて、その静寂を破った。
近藤「…歳さん…実はな…ちょっと総司のことで、頭の痛い話が来てるんだ。」
土方「…?…頭の痛い話?」
険しくなった近藤の表情に、土方も少し緊張して次の言葉を待った。
近藤「…総司の想い人のことなんだが…」
土方「…ん…?」
近藤「…向こうの親が、二人を別れさせて欲しいと言うんだ。」
土方「!?…」
近藤は深くため息をついた。
近藤「私も、確かに二人の行く末のことは心配している。…しかし総司の今の様子では、なかなかそれを言い出すこともできんでな。」
土方「…ということは、近藤さん…。近藤さんも二人を別れさせるべきだと思っているのか?」
近藤「…そうだ…」
土方「…!?…」
土方はしばらく言葉がでなかった。やがて、しどろもどろに土方が言った。
土方「…総司の心の支えは…あの想い人しかいない…」
近藤「そりゃぁ、わかっているさ。…しかしな…向こうの親の危惧する気持ちもわかる。…そして、それを一番わかっているのは…総司だと思うんだ。」
土方「…近藤さん…」
近藤「…今、すぐは無理だが…いつかは別れさせねばならん…。酷なようだが、それが二人のためだと思うんだよ。」
近藤は、腕組をして土方を見た。
近藤「…悪役は私がやる…。歳さん…あんたは総司を支えてくれ。」
土方はまだとまどった表情をしていた。
土方「…近藤さん、よく考えてくれ。」
近藤「よく考えたさ。…実は話があったのは、もう半月も前のことなんだ。」
土方「!?…」
近藤「これは…よく考えた結果なんだ。」
二人はお互いの視線をぶつけたまま、黙っていた。
夕闇が迫ってきている…。




