第89話
新選組屯所 土方の部屋-
巡察から帰ってきた総司が土方の部屋を訪れている。
二人とも、真剣な表情。
土方「…総司、それは本気でそんなことを言っているのか?」
総司「…本気です。」
土方、ため息をつく。
土方「…確かに、養生しろと言ったのは私だ…。だがお前は、我々と一緒にいると言ったじゃないか。急にどうしたんだ。」
総司「このまま隊にいたら、迷惑をかけつづけるだけだと悟ったのです。…どうか、私を隊から抜けさせてください。それができないのならば、せめて一番隊の長から降ろしてください。」
土方の目が釣りあがった。
土方「…長から降りてどうしようと言うんだ。」
総司「なんでもします。…近藤さんの小姓でも…土方さんの小姓でも…」
土方「ばかを言うなっ!!」
土方は、いきなり怒鳴りつけた。総司は、じっとそんな土方をにらむように見つめ返している。
土方「…お前は…どうあっても一番隊の組長だ。それをやめさせるつもりはない。…小姓なんかにするものか…。」
総司「……」
土方「一番隊を率いることができるのはお前しかいない…。あれだけ腕のたつ人間が揃ったら、逆に統率が取りにくいものだ。しかし一番隊は結束が固い。気づいていないかもしれんが、おまえには人を惹きつける何かを持っているんだよ。」
総司「それは、買い被りすぎというものです。…皆、私がこんなだから…不安なだけなんです。」
「そりゃ、違うな。」
外から声がした。障子に大きな影が映っている。
総司「…近藤先生…?」
障子が開いて、にこにこと微笑んでいる近藤が入ってきた。
近藤「歳さん、助太刀に来たよ」
近藤がそう言って笑い、土方の横に座った。
近藤「不安ならば、散ってしまうのが普通だ。しかし一番隊はそれがない。まぁ、なかには変わり者もいるが、うまくまとまっているじゃないか。…逆に、お前が隊から抜けたら、ばらばらになってしまうのは目に見えている。」
総司は何も答えず、じっと畳を見て黙っていた。
近藤「…隊に迷惑をかけているなんてことは考えるな。…いいな。」
総司は何か言いたげに顔をあげたが、やがて、こくりとうなずいた。
土方がほっとした表情をした。




