第83話
京の町中-
総司、可憐との逢瀬の帰りである。もう夕闇が迫ってきていた。
その総司を家の蔭から見ている、数人の浪人がいた。
「来たぞ、新選組の鬼がよ。」
「おい…あれが本当に沖田総司なのか?なんだかやわそうなやつじゃねえか。」
「ばか…そう見えて腕はなかなかのもんだ。気を緩めるなよ。」
「向こうは気が緩んでいるようだ。ありゃぁ、女に会った帰りだな…」
「やるなら、今だぞ。」
「よし。」
「しかし、しまりのねぇ顔してやがるぜ…。」
「おめえよりましだろう。」
「なんだと?」
浪人、ふと仲間を見るが、みなきょとんとした顔をしている。
「俺じゃねえよ。」
「俺も言ってねぇ。」
「…俺だよ…」
浪人達ふと振り返る。そして「あっ」と声をあげた。
「おまえ…道場破りの…」
「よく覚えていたな。…九郎だ。」
九郎、わっと逃げようとした浪人達を、うしろから覆いかぶさるように押さえつける。
九郎「このばかやろうが…。俺に負けるような腕で沖田殿を斬ろうだなんて十年早いんだよ。今度その面見せてみろっ!頭からぶった斬って、味噌汁の具にしてやるからそう思えっ!」
九郎はそう怒鳴りつけた後、浪人達を解放した。わーっと走り出した浪人達の前に、目を丸くして立っている総司にぶつかりそうになった。
浪人「す、すいません!」
総司「いえ、こちらこそ。」
総司は浪人達を見送り、近づいてきた九郎に振り返った。
総司「何を怒鳴っていたんです?みな、驚いて逃げて行ったけど??」
九郎「いやぁ、沖田殿が気にすることありません。ちょっと、喝を入れてやっただけですよ。」
総司「そうですか。」
総司はそう言って、にこにこと九郎に微笑んだ。
総司「九郎さん、お久しぶりですね。…いつ、うちの道場に来てくださるんです?中條君も待っているのに。」
九郎は慌てた。
九郎「い、いや…。某は、礼庵先生を守る仕事がありますし、まだお相手になるような腕ではありませんゆえ…」
総司「そうかなぁ…?あなたの噂は最近よく聞きますよ。もうほとんどの道場を破っておられるではありませんか。」
九郎「負けるとわかっている道場へは行きませんからね。勝って当たり前です。」
総司「なるほど…」
総司は笑った。九郎は「それじゃ…」と言って、立ち去ろうとした。
総司「今から礼庵殿のところへ?」
九郎「いや、仕事は終わりました。もう家に帰ります。」
総司「そうですか…」
九郎「失礼します。」
九郎は踵を返した。
総司「九郎さん…ちょっと飲みませんか?」
九郎「…え…!?」
九郎が驚いて振り返ると、総司がにこにことして返事を待っている。
九郎「いや、その…某…」
総司「食事のついでです。いかがです?」
九郎「はっ…そ、それでは、ご一緒つかまつる…」
九郎はしどろもどろになりながら、総司についていった。




