第82話
新選組屯所-
総司が戻ってくる。
部屋に向かう廊下で、中條が通りかかった。
中條「先生!」
中條はそう明るく声をかけたが、総司の様子に、はっと表情を固くする。
総司「…疲れました…少し眠ります。」
すれ違いざま総司が言葉少なに中條に言った。聞き取れるか取れないかの小さな声だった。
中條は何も言わず、総司の後を歩く。
中條(何があったのだろう?)
しかし中條は、今それを総司に訊ねるような無神経さはなかった。
総司がふすまを開き入って行く。そして、ふと振り返って中條を見た。
中條は立ち止まり、総司を見つめる。
総司「…床をひいてもらえますか?」
中條、嬉しそうに「はい!」と答えて、自分も部屋に入りふすまを閉めた。
中條が床を引き終えると、総司は刀の手入れをしていた。
それを見た中條、総司が人を斬ったことを察する。
総司は手入れをしながら、ふと目をあげて中條を見た。
総司「…喧嘩を売られたんですよ。」
中條「まさか…想い人さんとごいっしょでしたか?」
総司「いえ…あの人に追いつく前に向こうにつけられていることに気づいたから…。追いついていたら危ないところでした。」
中條、ほっとした表情をするが、すぐに表情をくもらせる。
中條「…せっかくの機会でしたのに…」
総司「また会える時が来ますよ。今日はどちらにしても日が悪かったのでしょう。」
中條「…そうですね…」
総司、刀にふった打ち粉を拭い終え、鑑賞に入っている。じっと刀をつばから刃先まで目線を滑らせた。
総司「刀の手入れは…何度やっても好きになれないな…」
総司のその言葉に、人を斬った後のむなしさが中條にも伝わってくるような気がした。




