第81話
京の町中-
総司は逃げるようにして、屯所へ向かった。
正直、刀を抜きたくはなかった。
しかし、浪人達は確実に総司を追って来ている。
人ごみに紛れてなんとかまこうと思うのだが、相手はしつこい。
屯所へ戻る道をかえて、土塀の続く狭い道へ入りこむ。
総司はそこで決着をつけようと考えていた。
相手は3人。
同時に斬りかかってこなければ、なんとか皆斬り倒せるだろう。
足音がついてきている。
総司はおもむろに立ち止まり、振り返った。
浪人達の足が止まる。
もう、各々手には刀の柄を握っていた。
浪人「…沖田総司だな。」
総司「そうです。」
浪人「…おぬしの命をいただきたい。」
総司「そうやすやすと差し上げるわけには参りませんね。」
総司も刀の柄に手をあて、下駄を脱ぐ。
足の裏に、冷たい砂の感触。
浪人達が刀を抜いた。総司も応えるように抜いて、構える。
総司の脳裏に、さっき見た想い人の背中が蘇る。
総司(…死ぬわけにはいかない…)
浪人達が声を上げ、刀を振り上げたと同時に総司も動いた。
……
総司は土塀に手をつき、咳込んでいた。
少し離れたところには、さっきまで刀を合わせていた男達が横たわり、動かなくなっている。
まだ細かに痙攣していた男も動かなくなった。
砂埃を吸ったせいもあり、咳がなかなか収まらない。
とうとうその場に四つんばいになるようにして、咳込む。
総司(斬られて死ぬのが早いか…それとも病に負けるのか…)
咳込みながら思った。
ようやく咳が収まり、総司は土塀にもたれて、息をはずませていた。
自分の体を見る。
返り血は浴びていなかった。
『おまえは恐ろしいやつだ。』
前に土方に言われた言葉を思い出した。ほとんど返り血を浴びることがない総司のことを言ったのである。
総司(可憐殿も、今私を見たら…そう思うだろうか…)
ぼんやりと考える。
総司は息が整ってから、立ちあがり歩き出した。
人を斬った後の脱力感、罪悪感。それが総司の体に疲れとなってのしかかっている。
もう、想い人に会うこともあきらめている。
…屯所へ戻る足取りは重い。




