第79話
新選組 道場-
総司が道場へ足を踏み入れると、稽古をしていた隊士達が一斉にこちらを向いた。
やはり一番隊であった。
「沖田先生!」
嬉しそうな声があちこちでし、山野を先頭に皆、総司のところへ集まってきた。
全員ではないところを見ると、自主稽古らしい。
「もう熱は下がられたのですか?」
「動いても大丈夫なのですか?」
隊士達が口々に言う。
困った表情をしている総司に、稽古を見ていた伍長があわてて皆を収めた。
伍長「先生はまだ病み上がりだから、稽古はしてもらえないぞ!」
総司は伍長に「すまない」と言い、隊士たちに向いた。
総司「心配をかけました。副長の許可がもらえたら、また務めに戻れるようになると思います。…さぁ、稽古に戻って…。ここに座ってみてますから。」
隊士たちはそれぞれ返事をすると、再び定位置に戻り稽古を始めた。
その時、中條が道場へ姿を現した。入る時に頭を下げようとした時、総司の姿を見つけて、あわてて総司の傍へと駆け寄ってきた。
中條「沖田先生!!」
総司「中條君、遅刻だよ。」
中條「ぼ、僕は、門番だったんです!」
むきになる中條に総司はくすくすと笑った。
総司「そうだったのか。悪かった。」
中條はふと心配げな表情をした。
中條「大丈夫ですか?…こんな空気の悪いところへ来ては…」
総司「こうしてみているだけだ。…寝てばかりいては、体がくさりそうなんでね。」
中條「…はあ…しかし…」
中條が何かをいいかけたのを、総司は目で制した。
そしてにっこりと笑うと、稽古をしている隊士達を見渡した。
総司「皆が元気で安心したよ。…あの雨の日の出動から、部屋から出てなかったから気がかりだったんだ。」
中條「…はい…」
中條は、にこにことして皆の様子を見ている総司を不思議そうな目で見ていた。
総司はどんな時も、稽古の時は厳しい表情を崩さなかったものである。
…そう…元気な時は…。
総司「?何をしています…早く、君も稽古に入りなさい。…ほら、山野君があそこで独りでいる。…彼に合わせられるのは君しかいないんじゃないかな?」
総司は笑いながらそう言った。
中條は総司に頭を下げて、山野の傍へ駆け寄った。
…何か今は、総司の笑顔が悲しかった。




