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第76話

総司の部屋--


総司は布団で寝かされている。じっと目を閉じてはいるが、意識はあった。

その傍には近藤と土方が腕を組んで、心配そうに総司を見ている。


あれからすぐに中條が戻ってきて、近藤の出る幕はなかったのだった。

中條はてきぱきと総司の世話をすませると、すぐに礼庵を迎えに出て行った。


総司は閉じていた目を開いて、二人を見た。


総司「…お二人とも…私はもう大丈夫ですから、部屋へ戻ってください。」


近藤と土方は一様に首を振り、「そうはいかん」と異口同音に言った。

そして、驚いて顔を見合わせた。

総司が「ふふ」と笑った。

二人はその総司の笑顔を見て、少しほっとした表情を見せた。


近藤「…なぁ、総司…。しんどい時は素直にしんどいと言ってくれんか。お前はいつも元気に見せているからわからんのだ」

総司「…ずっと元気だったんです。…今日は雨に濡れたから、ちょっと熱が出ただけです。」

近藤「…そうか…?本当にそうなのか…?」

土方「近藤さん…あんまり、総司にしゃべらせたらだめだ。」

近藤「ああ、そうか…そうだな…」


近藤は咳払いをして、腕を組んで総司を見た。


総司「いやだなぁ…。近藤さん。にらまれたら、寝られないじゃないですか。」

近藤「ん?…ああ…じゃぁ、やっぱり私は出るか。」


近藤はそう言ってゆっくりと立ち上がろうとした。

すると総司が半身を起こして慌てていった。


総司「違います…!…そんなつもりではないんです。」


近藤が少し驚いた顔をしたが、ふとにやっと笑った。


近藤「そうか…そうか…」


そう嬉しそうに言って座りなおし、総司に寝るように促した。

総司は何か照れくさそうにして、体を戻した。


近藤「…そう言えば、お前が小さい時も、こうして熱を出したことがあったな。」

土方「…そうだったな…夜、交代で総司の様子を見に行ったもんだ。」

総司「よしてください。…子供の頃の話なんて…」

近藤「…あの時も私が部屋を出ようとすると…何か言ってはひきとめてくれたなぁ。」


近藤が遠い目をして言った。


土方「俺にはそんな記憶はないぞ」


土方が少しぶすっとしたように言った。


総司「土方さんもちゃんと引き止めましたよ。」

土方「…そうだったかなぁ…?」


土方が首をかしげている。


近藤「…こうしていると…なんだかあの頃に戻ったようだ…」


近藤が言った。土方がふと表情を緩めた。

三人はつかの間の安らぎを感じていた。


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