第70話
京の町中-
中條と山野は不安そうに総司を見つめている。
総司「…どうして君たちはここに?」
山野「先生が一人でふらっと出て行かれたと門番から聞いて、お探ししていたのです。私たち一般隊士ですら、一人で出歩くことは禁じられていますのに…。」
山野が神妙な顔つきで言った。その隣で中條は、総司が息をはずませている様子を心配そうに見つめている。
総司「…そうだったな。…すまなかった。」
中條「先生…薬を取りにいかれるおつもりだったのですか?」
総司は、その中條の言葉で薬が切れていたことを思い出した。
総司「そう言えば、そうだったかな…?でも、またあらためて出直すよ。…今日は帰ろう。」
中條「では、私が取りに参ります。礼庵先生のところですか?それとも、松本様の方の…?」
総司「松本医師のご友人のところだけど…わかるかい?」
中條「はい、存じております。」
総司「では、申し訳ないが頼むよ。」
中條は「はい!」と返事をして、きびすを返し走り出した。
総司は中條が走り出して行ってしまったことに慌てた。
総司「一人じゃ駄目だ…山野君もついて行ってやってくれ…」
山野「いえ、沖田先生と一緒に参ります。中條さんともそういう約束をしていますので」
山野が微笑んで言った。
山野「中條さんは、あの身体の割に足が速いんです。大丈夫だと思います。」
総司「…しかし…」
山野「さぁ、戻りましょう。」
総司「……」
総司は少し不安になりながらも、山野に従った。
……
新選組屯所-
中條はそれから一刻してから帰ってきた。
玄関先で、うろうろしながら待っていた総司は、ほっとして中條に礼を言い、薬を受け取った。
中條「本人が来なくては困る…と怒られました。」
中條はそう言って笑った。
医者には総司が襲われたことを説明し、なんとか薬をもらったと言う。
総司「代わりに怒られてくれたのか。…悪かったね。」
中條「いえ…」
中條も笑った。しかし、やがて神妙な顔つきになり「先生…」と呟くように言った。
総司「?…どうしました?」
中條「…実は、先ほど自分も襲われました。」
総司「!?…で、どうしたんですか!?怪我は?」
中條「相手が2人しかいなかったので、私は大丈夫です。」
総司「本当だろうね?…君はよく隠し事をするから…」
中條は「本当です」と言って笑った。
総司は、ほっとした表情をした。




