第67話
島原-
華一は遊郭の一室から、ぼんやりと明るい外を見ていた。
遊女は、昼間はめったに外へ出ることはない。昨日までは…。
…華一は今日も遊郭を出た。
……
この恋がかなうことはないことはわかっていた。だが、日を追うごとに総司への想いはつのっていた。
華一(新選組嫌いやったのに…うち、どうかしてるわ…)
何度もそう思い、気持ちを断ち切ろうとした。しかし断ち切ろうとすればするほど、想いはつのっていく。いつまでも、総司の笑顔が頭から離れなかった。
新選組屯所前--
華一は、屯所が見える木の裏で立ちすくんでいた。
華一(こんなところまで来てしもたわ…どないしょ…)
華一は、そう思いながら、とどまっていた。
すると突然、後ろから肩をたたかれた。華一は驚いて振りかえった。
華一「…礼庵…先生」
礼庵がにこにことして立っている。
礼庵「どうしました?こんなところで…」
華一「いえ…なんでも…なんでもありまへん」
華一は、礼庵に頭を下げて立ち去った。
礼庵「華一殿!」
礼庵が呼びかけたが、華一は走り去ってしまった。礼庵は一度屯所に振り返ったが、意を決して、華一を追いかけた。
川辺--
華一は川辺の木の元にしゃがみこんでいた。どうしようもないせつなさに押しつぶされそうになっていた。
華一(2度しか、会うてないのに…なんで、うちはここまで…)
「華一殿…」
華一の後ろから、追いかけてきていた礼庵が声をかけた。
礼庵「どうなされた?どうしてあそこまで行って、帰ってしまわれるのです。」
礼庵は華一の心が見えているらしい。
華一は涙を必死に堪えながら答えた。
華一「…会いとうて…沖田はんに会いとうて来たんどすけど…、会うてもつらいだけやと思って…」
礼庵「総司殿に…好きな人がいるからですか?」
礼庵の言葉に、華一はうなずいた。
華一「…わかってるんどす。うちには…手の届かん人やとわかってるんどす。でも…」
華一の目から涙が流れた。
華一「…たまらんのどす…あの人の笑顔がわすれられへんのどす。」
礼庵が華一の隣に座って、ため息混じりに言った。
礼庵「…罪な人だな。総司殿も…」
しばらく二人は沈黙した。華一のすすり泣く声が、川のせせらぎに消されていった。




