第66話
島原近くの茶屋-
華一は美輝を誘い、茶屋で一緒にあんみつを食べていた。
美輝「お姉はん、ええなぁ。沖田はんにも、礼庵先生にも会うたやなんて…」
美輝はあんみつをさじでつつきながら、ふくれっつらをしている。
華一「あのお医者様が、美輝はんのええ人やったんやね。堪忍な。」
美輝「…」
美輝は複雑な心境なのか、少し困ったような表情をした。
美輝「はぁ…切ないわぁ。」
華一「あの礼庵先生とか言う人のこと?」
美輝はうなずいた。つい礼庵が女であることを口に出しそうになったが、なんとか黙っている。
華一「…うちも切ないんや…」
美輝「…え?」
美輝は驚いて華一を見た。華一も、あんみつをただつついているだけで、口にしていないようである。
華一「こんな気持ち…初めてや。」
美輝「華一姉はんっ!まさかっ!礼庵先生に恋しはったんどすかっ!?」
華一「え?」
華一は目をぱちくりと開いて、立ち上がった美輝を見上げた。
美輝「あっあきまへんでっ!礼庵先生は…礼庵先生は…えーと…」
美輝はどう言えばいいのか困った様子で、その場で足踏みしている。華一は驚いてただ美輝を見上げていた。
美輝「そっそうや!礼庵先生はうちのやさかい、絶対に好きになったらあきまへんでっ!」
華一は、吹き出して笑った。
華一「違うわ、美輝はん。…うちが切ないのは…あのお侍はんの方や。」
美輝「え…?…もしかして沖田はんのことどすかっ!?」
華一は真っ赤になってうなずいた。
美輝はゆっくりと座って、また困った表情をした。
美輝「華一姉はん…沖田はんもあかんわ…。」
華一「…え?」
華一はぎくりとした表情をした。
美輝「沖田はんには、好いた人がおるんや。…名前は知らんのやけど…。」
華一は、自嘲するような笑みを見せ、一つため息をついた。
華一「…そうどすやろな…うちなんか…手の届かん人やもの…」
美輝は黙っていた。




