第65話
京の町中-
総司は、久しぶりに菓子屋へと向かっていた。最近忙しくて、甘いものを口にしていない。
どこの菓子屋にするか考えながら歩いていると、柔らかい風が総司の頬に触れた。
「お侍さん、どちらまで?」
総司が驚いて振り返ると、知った顔が目の前にあった。
礼庵である。何かくすくすと笑っていた。
総司「…意地悪な人だなぁ。誰かと思いましたよ。」
礼庵「失礼。普通に声をかけるのがおもしろくなくなりましてね。」
総司「人をおもちゃにしないでください。」
総司がふくれてみせると、礼庵が再びくすくすと笑いながら、謝った。
礼庵「そう言えば、昨夜、島原で捕り物があったそうですね。」
総司「!!どうして知っているんです?そんなことを」
礼庵「ついさっき、美輝さんと会いましてね…」
と、礼庵がいいながら、前方を見た。そして何かに気づいたように、眉間に皺を寄せて立ち止まった。
総司が礼庵の視線の先を見ると、昨日助けた太夫が普段着で立っていた。こちらを見て目を見開いている。
礼庵「…お知り合いですか?」
礼庵がいぶかしげに総司に尋ねた。総司が返答に困っていると、太夫の方からこちらへと近づいてきた。
太夫「昨夜は…助けてもろておおきに」
太夫が深々と頭を下げて言った。
総司「いえ…」
総司が困り果てて、後の言葉につまっていると、礼庵が「ああ!」と声を上げた。
礼庵「華一殿ですか?…三澤屋の…」
太夫「へえ…」
総司は驚いて礼庵を見た。礼庵はそんな総司に知らん振りで、太夫に言った。
礼庵「美輝さんからあなたのことを聞いていました。昨日の捕り物で怪我がなかったか、とても心配されていましたよ。」
太夫「ほんまどすか!…おおきに…後で美輝はんに会うて来ます。」
礼庵「それがいい。安心されますよ、きっと。」
礼庵がそう言ってから、目を丸くしている総司を見た。
礼庵「島原でも評判の太夫、「華一」さんです。昨日の捕り物で、華一さんに何もなかったかどうか、あなたに聞いて欲しいと美輝さんに頼まれていたのですよ。」
総司「…そうでしたか…」
総司は驚いて華一太夫を見た。太夫は頬を染めて、下向き加減にいる。
総司「昨夜は…怖い思いをさせて申し訳ありませんでした。…先にあなた方を助けてから、突入しなければならないのに…何分、私の未熟さで…」
総司はしどろもどろに言った。
太夫は視線を合わさないまま、首を振った。
頬は赤く染まったままである。
礼庵(…やばいな…)
礼庵は、この太夫が総司に想いを寄せていることに気づかずにはいられなかった。




