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第64話

今日の町中 夜-


総司は島原のある遊郭への出動を言い渡された。土方が言うには「大きな集まりではないが、後々面倒になる前に先につぶしておきたい。」とのことで、奉行所からも許しがすぐに出たそうである。

総司は一番隊を連れて、その遊郭へと走っていた。

しかし、遊郭の中での捕り物は正直気が進まなかった。遊女達に迷惑をかけることになるからである。出動の前、総司は隊士達に「店の人間には間違っても刀を向けないように」と何度も念を入れた。



とある遊郭の前-


総司たちは、先に打ち合わせたとおりに、隊を散開させた。

総司の後ろには、中條、山野以下数人がついている。他、伍長以下は裏から入るように手配している。


総司「さぁ、行きましょう。」


死番の中條が「はっ」と返事をし、総司の前に進み出て、門をくぐった。

総司たちはその後に続いた。


……


「新選組だ!御用改めである!」


隊士達は、口々にそう叫びながら、一つ一つの障子を開いた。探すのは、大広間だけという達しが出ていたが、それらしい会合が開かれている様子がなかった。

総司が焦りを感じ始めた時、前方から乱闘の声が響いてきた。裏から入った伍長の隊が、先に見つけたのであった。


総司「行きましょう!」


総司は、中條たちにそう言い、走り出した。

そして、乱闘になっている部屋へと飛び込んだ。

すると乱闘の奥の方で、遊女達が数人固まってうずくまっている姿が見えた。


総司「皆を部屋の外へ連れ出しなさい!!早く!」


総司は障子をすべて取り払い、中條達に遊女達を連れて出るように命じた。

すると、部屋の前方の小舞台に一人の遊女がうずくまっているのを見た。着ている物から見て、太夫のようである。乱闘に阻まれて、外へ出ることができなくなっているらしかった。総司はその太夫の傍へと走り寄り、うずくまっている太夫の体を抱えるようにして立ち上がらせた。

太夫が怯えて悲鳴をあげ、総司を振り払おうとした。


総司「大丈夫。私が一緒に参ります。外へ。」


総司が太夫を落ち着かせるために微笑んでそう言うと、太夫はうなずいて、総司に抱えられるままに部屋を出た。

すると店の主人が、中庭から太夫に必死に手招きをしている。総司は太夫を主人の前まで誘導した。

太夫は、主人の足元に手をついて座り込んでしまった。


総司「…大丈夫ですか?怪我はありませんか?」


総司が太夫の傍にかがんでそう聞くと、太夫は首を振った。美しい目に涙が浮かんでいる。


総司「…本当に申し訳ない。…」


総司はそう謝ってから立ち上がり、主人に頭を下げた。


総司「お座敷を荒らしてしまって申し訳ありません。…店の中の修理は私がすべて責任を持ちます。」


主人「…へ、へえ…」


主人も震えながらも、頭を下げた。


総司「もう少しで片をつけます。」


総司はそう言い残して、まだ乱闘のおさまっていない部屋へと向かった。

すると太夫がゆっくり立ち上がり、じっと総司の後姿を見送っていた。


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