第62話
新選組屯所前-
総司は受け取った包みを持ったまま、慌てて外へ出たが、当然のごとく可憐の姿はもうなかった。
中條も総司の後を追って出てきた。
中條「先生…たぶん、礼庵先生は可憐様をそのまま家へ帰されることはないと思います。」
総司「!…川辺か。」
中條「お急ぎください!」
総司は中條の声に追われるようにして、川辺へと走った。
実はさっきまで、土方に命ざれて横になっていたのだった。
が、可憐が来たと聞いて、だるさも何もかもふっとんだように、体が軽くなった。
そして、中條から渡された包みの中を見ることもなく、慌てて部屋を飛び出したのだった。
……
川辺へと向かうと、談笑しながら歩いている礼庵と可憐の後姿が見えた。
総司の下駄の音を聞いて、先に礼庵が振り返った。
礼庵「…よかった…。来られましたよ。」
礼庵が可憐にそう言うと、可憐は驚いて、後ろを振り返った。
総司は息を切らしながら、2人の前で止まった。
総司「可憐殿!…申し訳ない…ちょっと…土方さんと話をしていて…」
可憐「総司さま…」
可憐は本心から驚いていた。本当に追いかけてくるとは思わなかったのである。
礼庵「では、私はこれで。」
礼庵は微笑んでいい、逃げるように足早に立ち去った。2人の邪魔をしてはならないという気遣いからだった。
総司と可憐が礼を言う間もなかった。
総司と可憐はお互い下を向いて、黙り込んでいた。
そして、総司が先に口を開いた。
総司「また…礼庵殿に借りができてしまいました…。」
可憐「…私もですわ…」
2人はそう言って微笑みあった。総司は包みを持ち替え「今、開いていいですか?」と可憐に尋ねた。
可憐は恥ずかしそうにうなずいた。
総司は包みをゆっくりと開いた。
……
礼庵は足早に家へと向かっていた。
礼庵(本当に手のかかる人たちなんだから…)
そう思い、苦笑しながら歩いていると、後ろから自分を呼ぶ声がした。
「先生!…診療所までお送りします!」
中條だった。体の大きいわりに中條は足が速い。礼庵が振り返ったときには、もう隣にいた。
礼庵「中條さん、門番は?」
中條「丁度、交替だったので、そのまま来たんです。」
礼庵「しかし…暮六つが近いじゃないですか。」
中條「いいんです。暗くなったら、先生こそ危ないですよ。お供します。」
中條は礼庵を急かしながら歩いた。
礼庵は中條の思惑が全くわからないまま歩いた。
しばらくして中條が前を向いたまま呟いた。
中條「先生…もっと自分を大事にしてください。」
礼庵「え?」
礼庵が思わず聞き返すと、中條はふてくされたように先を歩いていった。
礼庵「中條さん?何を怒ってるんです?ねぇ?」
礼庵はあわてて中條を追った。
結局、礼庵には中條の言葉の意味がわからなかった。




