第59話
新選組屯所 道場--
総司は久々に道場にいた。
このところ、咳がおさまらなかったので、撃剣の稽古も控えていたのだった。
今日、交代で師範をしてくれることになっていた斎藤が、心配そうに様子を見にきた。
が、総司が次々に若い隊士達を打ち崩す姿を見て、ほっとした表情をした。
総司がふと気づいて、斎藤に近づこうとしたが、斎藤は「いいよ」というように、手を振りながらその場を去って行った。
総司は斎藤の背中に頭を下げると、「次!」と声を上げた。
……
実はその姿を、土方がそっと外から、格子窓を通して覗いていた。
丁度総司の後ろなので、総司自身は全く気づいていないようだが、総司に対する隊士達からは、もちろん、土方の鋭い目がはっきり見える。
とまどうような表情をする隊士達に、土方は「だまってろ」というように、人差し指を口に当てて睨みつけた。
総司は次から次へと、隊士達を打ち崩していく。
が、かなり無理をしているように、土方には見えた。
土方(ただでさえ、あの人数の相手をするのは無理がある。相当しんどいはずだが…)
近藤には、子どものように素直な総司も、土方には突っ張っているため、頭ごなしに怒鳴ったところで、総司が言うことを聞くとも思えない。
総司「次!…」
総司の肩がかなり上下している。今まで、寝ていることしかできなかった鬱憤が溜まっていたのだろうが、あまりにも無理をしすぎていた。
隊士達の方も、自分から手を上げようとするものはいなかった。皆、一様に下向き加減でいる。
総司「じゃぁ、副長にお願いしようかな…」
その声が聞こえ、土方が思わず「え?」と目を丸くした。
総司「土方さん。」
総司が振り向き、土方に笑顔を見せた。
総司「さっきからずっと、背中が痛いなぁと思っていたら、土方さんの視線だったんですね。」
土方「ばかやろう。」
土方は苦笑して言った。
土方「意地の悪い奴だ。わかっていたのなら、そう言わんか。」
総司「一つお相手できませんか?」
土方「よしておこう。今のおまえには勝てそうにない。副長が負けたらサマにならんからな。」
総司がくすくすっと笑った。その笑い方もいつもの総司のようで、そうでないような気もした。
土方「そろそろ、やめてやれ。さすがの私も、あいつらがかわいそうになってきたぞ。」
土方は総司の前にいる隊士達をあごでさしながら言った。
総司は肩をすくめて、隊士達に言った。
総司「では、今日は副長のお情けによりこれで終わりにします。お疲れ様でした。」
総司のその言葉に皆ほっとした表情を見せ、深々と頭を下げた。
総司「先に出てください。副長と話があるから。」
総司のその言葉に、一人一人頭を下げて道場を出て行った。
全員が出て行ったのを見送った総司が、土方の方に振り向いた瞬間、突然がくっと膝をついた。
土方「!!…総司!!」
土方は驚いて、道場の入口に向かった。




