第56話
礼庵の診療所-
今日は、珍しく患者の少ない日だった。礼庵は縁側に座り、ぼんやりと澄み切った空を見てため息をついた。
横で礼庵に寄り添うようにしてお手玉をしていたみさが、不思議そうに礼庵を見上げた。
みさ「先生…どうしはったん?ため息なんかつきはって…」
礼庵「え?…ああ、なんでもない。」
礼庵があわてて、笑顔を見せながらみさにいった。
みさ「うちが子どもやと思て、ごまかさんといて…先生。」
礼庵「…え?(^^;)」
礼庵は困ったように頭を掻いた。
礼庵「そんなつもりはないんだけど…。」
みさ「じゃぁ、どないしはったん?」
礼庵「…うーん…」
みさ「うーんじゃ、わかりません!」
みさの執拗な追求に、礼庵は両手を挙げて降参した。
礼庵「参りました。みさ殿。すべてお話します。」
みさ「よろしい。お話なさい。」
みさが調子に乗って言った。礼庵は笑いながら、みさの体に手を回して抱き寄せた。
そしてふざけ調子で言った。
礼庵「実は…例のがんこなお侍さんのことでございます。」
みさ「ああ…あのお侍さんですね。」
みさも総司のことだとわかっている。悪乗りしながら礼庵の次の言葉を待った。
礼庵「昨日診察しましたら、急に私に礼を言ったのでございます。」
みさ「ほうほう。」
礼庵「私には…そのお侍さんが急に、元気がなくなってしまったように思えるのでございますよ。」
みさ「では、薬を差し上げたらよろしいでしょう。」
礼庵「薬は他の医者があげております。」
みさ「そうではなくて…」
礼庵「…?…そうではなくて?」
みさはいたずらっぽい顔で、不思議そうに自分を見る礼庵を見上げた。
みさ「ほら…先生がいつも呼んできはる…」
礼庵「????」
礼庵はしばらく目をぱちくりと見開いていたが、やがて「ああ!」と言った。
礼庵「想い人さんのことだね。」
みさがうなずいた。
礼庵「…うーん…それは今回の場合は、難しいなぁ。」
その礼庵の言葉に、今度はみさが不思議そうな表情をした。




