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第55話

礼庵の診療所-


礼庵は長い沈黙の後、中條に言った。


礼庵「…今はそっとしておいてあげましょう。」

中條「!?…」


中條は礼庵の言葉に驚いた。


中條「そっとして…とは…?」

礼庵「言葉の通りです。…何もする必要はありません。」

中條「…しかし…!」


礼庵は神妙な表情で、中條に言った。


礼庵「こういう時は、どんな言葉をかけても、安っぽい慰めにしかなりません。そんな言葉をかけても、総司殿が立ち直るわけがないでしょう?」

中條「…先生…」

礼庵「中條さんは初めてなのかもしれませんが…総司殿はこれまでも、同じような経験をされたことでしょう。総司殿は大丈夫です。…お体の具合は、私が診に行きます。」


中條は、黙って礼庵に頭を下げた。


……


総司の部屋--


礼庵は総司の診察を終え、道具を片付けていた。


礼庵「痰がからんでいるようです。できるだけ吐き出すように。血痰が出たら、すぐに、かかりつけのお医者様に連絡してください。」

総司「…わかりました。」

礼庵「中條さんや一番隊の人達が心配されています。…薬は決して切らさないようにしてください。」


淡々と医者らしく助言する礼庵に、総司は何か安心感を覚えていた。

いつもなら、総司が戸惑うほどに心配げな目をして自分を診察する礼庵。その目を見るたびに、総司は「ほら医者の目になる」とはぐらかしていたのだが、本当はそんな目こそ「友人」としての「目」なのだった。

しかし、今は違っていた。冷静な「医者」として自分を診てくれているような気がした。


総司「礼庵殿…」

礼庵「…はい…?」


礼庵は不思議そうな目で、総司を見た。


総司「…ありがとう…。これからも、ご迷惑をおかけすることになるかと思いますが…」

礼庵「いきなり、あらたまってなんです。」


礼庵は総司の後の言葉を遮って言った。


礼庵「その言葉はあなたを心から心配する人に言うべきです。医者の私には遠慮は無用ですよ。」


そう言って微笑むと「では、私はこれで」と急ぐように出て行ってしまった。

残された総司は、苦笑するしかなかった。


……


礼庵は足早に歩いていた。

涙が止まらなかった。

通り過ぎる人に気づかれぬよう下を向き、汗を払うように手の甲で頬を拭いながら、診療所へと向かっていた。

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