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第54話

礼庵の診療所-


礼庵が厳しい表情で座っている。その前には中條がいた。

中條は、最近総司の体の具合があまりよくないことを伝えに来たのだった。


中條「お体の方もそうなのですが…昨日の巡察からすっかり塞ぎこんでしまって…」

礼庵「…昨日の巡察とは?」


中條は遠慮がちに話し始めた。


……


昨日の巡察の帰り道のことである。

少し気の緩んでいた一番隊に、突然数人の浪人が猛然と襲いかかってきた。

数は、一番隊の方が圧倒的に多い上、相手は無謀なわりに腕はあまりよくなかったようである。

皆、あっさりと斬り倒されてしまった。


総司が、隊士達に命じて、浪人たちの素性を調べさせていると、前方の樹の陰から、一人の男の子が大声をあげて、猛然とこちらに向かって走り寄ってきたのである。

手には木の棒を持っており、浪人たちの傍にしゃがみこんでいる隊士達に襲い掛かってきた。

相手は子どもなので、隊士達はさすがに抜刀することはなかったが、死に物狂いで襲い掛かってくる子どもをどうすればいいのかわからない。

とうとう総司が進み出て、子どもの腕を掴み、動きを封じた。

子どもは恐怖と怒りに満ちた目で、総司を見上げている。


総司「…君のお父さんが…ここにいるのかい?」


総司が落ち着いた声でそう子どもに尋ねた。

子どもはうなずいた。


総司「…では、お父さんの体だけはここに置いておきます。お母さんに連絡して、引取りに来てもらいなさい。」


子どもは手を離され、しばらく呆然と総司を見上げていた。

が、突然、ぺっと総司の顔につばを吐きかけた。

そのとたん、隊士達が怒りに震え、思わず刀に手を当てたが、総司が目で制した。


「情けなんか無用や!!新選組なんて皆、死んでまえ!!」


子どもはそう叫ぶようにいい、走り去っていった。追いかけようとする隊士がいたが、総司が「やめなさい!」と強い口調で止めた。


総司「子どもに罪はありません。…とにかく、この人達の素性を調べてください。」


総司が子どもに吐きかけられたものをぬぐいながら、落ち着いた声で言った。

隊士達は心にもやもやとしたものを感じながら、作業を続けたのだった。


……


総司が部屋に閉じこもるようになったのは、それからだという。

その場では落ち着いた様子を見せていたが、一番、傷ついていたのはやはり総司だったのだ。


礼庵「相手が子どもだけに…よけいに辛いでしょうね。」


礼庵がため息混じりにそう言った。

中條は黙り込んでいる。

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