第49話
夜-
一番隊に出動の命令が下り、総司を先頭に鴨川へ向かった。
鴨川ではもはや二番隊が大勢の浪人を相手に闘っていた。
総司「永倉さんっ!」
隊士に散開するように指示し、総司は永倉へとまっすぐ向かった。
永倉は汗と血の混じった顔を、手の甲で拭いながら総司に向いた。
永倉「すまん、総司。…こいつら斬っても斬っても減らないんだ。いったいどこからわいて出てくるんだか…。」
足元には浪人達が倒れているが、その中には、浅葱色の外套を着ているものもいた。
総司「永倉さん、隊の人達はかなり疲れているでしょう…。怪我人を連れて、すぐに帰らせた方がいいのでは…?…向こうもかなり疲れているはずです。あとは一番隊に任せてください。」
永倉「うむ…。余力のあるやつは残しておく。私も皆に指示したら、すぐに戻ってくるから。」
総司「わかりました。」
永倉、呼子を鳴らす。総司、刀を抜いて斬り合いの只中へ入っていく。
時間の経過-
河原はうめき声と血の匂いで、すさまじい状態になっていた。
両足で立っているのは、新選組隊士だけだった。
総司は息を整えながら、誰ともなく振り返って尋ねた。
総司「番所へは誰か行きましたか?」
「伍長が行きました!」という返事を聞いて、総司はうなずいた。
そして、足元でうめいている男の傍にしゃがみこみ、傷の状態を見た。肩から胸にかけて血が吹き出している。しかし、刀に脂がまわっていたようで深くはなかった。
総司は、じっと男を見つめ「痛むだろう」と声をかけた。
男は恨みのこもった目で総司を睨んでいる。
総司「…家族は?」
男は、その思わぬ言葉に目を見張った。が、目を閉じ答えた。
男「…おらん…」
総司「…好いた人は?」
男「……」
男は黙っている。
総司「…その人を悲しませて何になります。命を粗末にしちゃいけませんよ。」
男の目から涙があふれ出た。
男「…情けねぇ。」
総司「……」
総司は黙って男を見つめていたが、やがて立ち上がった。
そして振りかえると、中條がぼんやりと下を向いて立っていた。
じっと、足元にいる遺体を凝視している。
総司は中條に近づいた。
総司「中條君?どうしたのです?」
中條は、はっとして総司をみた。きっと噛んでいた唇に白く筋が入っている。
中條「…この人…知ってるんです…」
総司は驚いて、中條の足元にいる動かぬ男を見た。
中條「…この間町中で…この人が何かを探しておられるようすだったので、声をかけたんです。そしたら、大事な人にあげるかんざしを落としたって…。」
総司は眉を曇らせた。
中條「一緒に探して、たまたま僕が見つけて…。何度も礼を言ってくれました。」
総司「…君が斬ったのかい?」
中條「いえ…もし、この人がいるとわかっていたのなら、逃げるように言えたのに…。」
総司「……」
中條はその場にしゃがんで、両手を合わせた。
総司は、やりきれない気持ちでその場を離れた。
総司(こんな時代がいつまで続くのか…)
その答えは、誰にも出すことができない。




