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第48話

川辺から屯所への帰り道-


総司は、苦笑しながら井上に言った。


総司「ひどいな、おじさん。私は体だけが成長したと思っていたんだ。」

井上「そういうつもりじゃなかったんだが…。うーん、そう考えると、おまえさんも変わったのかもしれんなぁ。」

総司「……」

井上「…勇さんや歳さんほどではないがな…。」


今度は総司がぎくりとした。総司自身も感じていたことだったからである。


井上「…私は、お払い箱になってしまいそうだよ。」

総司「…!!…」


総司は思わず立ち止まって井上を見た。

井上は総司から2、3歩前に出て止まった。


井上「私の率いている六番隊などは、ただの飾りみたいなもんだ。…勇さんや歳さんには、私なんぞ厄介者なんじゃないかな。…この際、とっとと追い出してもらって…」

総司「馬鹿なことを言わないで下さい!!」


総司は井上の言葉を遮り、思わず大声を出していた。

そして、井上の前に回って言った。


総司「おじさんの考えすぎです!…近藤先生だって…土方さんだって…おじさんのことを大事に思っています!」

井上「…そうかなぁ…そうは思えんがなぁ。…大事に思ってもらえるようなこと…してないからなぁ…」


井上の顔は深刻である。


総司「おじさん…おじさんまで…脱走しちゃいやですよ!」

井上「脱走!?」

総司「山南さんみたいに…突然いなくなっちゃいやいですよ!」

井上「!!…」


井上は驚いた顔で総司を見上げている。まさか、総司がそんなことを考えているとは全く考えていなかったのである。

総司の真剣な表情に井上は突然大きな口をあけて笑った。


井上「…おいおい、大概なことを言うんじゃない…総司…。脱走なんかせんよ。」

総司「約束ですよ。」

井上「ああ、約束だ。」


総司は少しほっとした表情をした。

そして、二人は再び歩き始めた。


総司「…少なくとも私は…おじさんに何かあったら、命をかけて助けに行くつもりでいますからね。…きっと、近藤先生も土方さんも同じ気持ちです。」

井上「うんうん。」

総司「…わかっているんですか?本当に…」


何か呑気な口調に戻った井上に、総司は心配げに言った。

井上はにこりと笑って、再び総司を見上げて言った。


井上「わかっているともさ。…少なくとも、総司に命をかけてもらうことのないように、私もがんばらねばならんってことくらいはな。」


総司は井上に微笑み返した。

すると井上は、さっと手の平で顔を拭った。


総司「おじさん、泣いてるんですか?」

井上「年は取りたくないなぁ。…このところ涙もろくてな。」

総司「まだ、40にもなっていないのに、何を言ってるんです。」

井上「ん?私はまだそんなに若かったかな。」


総司がくすくすと笑った。井上も笑っている。

…夕日が二人の影を長くのばしていた。

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