第47話
川辺-
総司は一番隊を引き連れて、巡察を終えようとしていた。
京の人達の冷たい目に晒されることには、大分慣れたつもりだったが、やはりいい気分ではない。
しかし、今日は珍しく穏やかな日だった。先日、不逞浪士たちの巣窟を襲撃した後、大きな揉め事も少なくなってきていた。
総司(このまま、ずっとこんな風だったらいいのになぁ。)
そう思いながら歩いていると、見慣れた後姿が川辺に見えた。
ちょこんと座って、釣りをしている。
総司はくすっと笑った。
総司(こんな流れの早いところで釣りだなんて…井上さんらしいなぁ。)
伍長に、隊を連れて先に帰るように言い、総司は「六番隊組長」井上源三郎の後ろからかがみこんだ。
総司「釣れますか?おじさん。」
いきなり後ろに人が立てば、普通の武士ならば警戒する。
しかし、井上は全くそんな様子もなく、「うーん」とうなっている。
井上「釣れないなぁ。全くなぁ。」
そんなことを呟いて、ふと総司を見上げた。
井上「おお!総司だったか!」
総司はあきれた風をみせた。
総司「私と知らずに答えたんですか?」
井上「ははは。「緊張感がない」って、歳さんに怒られるなぁ。」
井上は頭を掻いた。呑気な性格である。しかし、そこが井上のいいところでもある。
総司「こんなところで、魚なんて釣れませんよ。一緒に帰りましょう。」
井上「うーん。やっぱりそうか?…」
井上はそう言って、何事がぶつぶつ言いながら、釣り糸をまとめて立ち上がった。
総司は、井上と並んで歩いた。
総司「今日、六番隊は非番ですか?」
井上「どうだったかなぁ。」
そんな井上の言葉に、総司はくすくすと笑った。
総司「…おじさんも、変わりませんね。」
井上「?変わらないとは?」
総司「試衛館の頃からずっと変わりませんね。」
井上「総司だってそうじゃないか。」
総司「そうでしょうか?」
井上「そうともさ。」
井上はそう言って笑った。総司は、どう変わらないのか聞こうとしたが、井上の呑気な表情を見てやめた。何か嬉しかった。
総司は何か井上の顔色が冴えないことに気づいた。
総司「おじさん…元気がないけれど、どうしたんですか?」
井上「そうかなぁ…?」
井上は頬をさすってみせた。
そして、目をまんまるにして総司を見上げた。
井上「そんなに元気がないかね?」
総司「ほら…おじさんがそんな風に目を大きくして見せる時は、無理をしている時なんですよ。」
井上はぎくりとした顔をした。図星だったようである。
井上「総司は大人になったなぁ。…体だけじゃないんだなぁ。」
井上はそう言って、今度は自分の頭をさすった。




