第46話
新選組屯所 朝-
道場では通常の稽古が始まっていた。今日の稽古の師範は、永倉である。
永倉の教え方は、総司のように荒っぽくなく、それでいて丁寧でもなかった。
隊士達も、総司に対してほど、永倉を恐れてはいないが信頼はあるように思う。
総司は、道場の外から、ぼんやりと永倉の撃剣の稽古を眺めていた。
総司(…うまいなぁ…永倉さん。さすがだなぁ…)
そんなことを思いながら見ていると、ふと永倉と視線があった。
総司はあわててその場から離れようとしたが、永倉に、はっしと袖を捕まれた。
永倉「みーつけた!」
そう言って、にこにことしている。永倉はそんな茶目っ気も隠し持っている。しかし、下の者には「威厳がなくなるから」とそこは見せないでいるのである。
総司「…昼から…巡察があるので…」
総司は永倉の顔も見ずに、そんな言い訳をした。
永倉「あ!そうだったか!すまん!」
そう言って、突然掴んでいた総司の袖を離した。総司はまさか離されると思っていなかったので、思わず六歩を踏んでしまった。
永倉はその総司の姿に大笑いした。
永倉「総司、隙ありだな。…いつか一緒に稽古を見てくれ。」
そう大笑いしながら言い、稽古へ戻っていった。
総司は頭を掻いて、永倉を見送った。
総司(まいったなぁ。…でも…試衛館の頃から全然変わらないのは、永倉さんと斎藤さんくらいかもな…)
そう思いながら部屋へ戻ろうとして、「あ」と思いついた。
総司(井上さんもあんまり変わらないかな…。でも…)
総司はふと、新選組の参謀である伊東のいる部屋の方を見た。
総司(藤堂さん…最近、話しかけてもくれなくなってしまった…。試衛館の時は…とても気さくな人だったのになぁ…)
藤堂は最近ほとんど、伊東達と一緒にいるようになってしまった。
総司(…山南さんが切腹した日からだな…。…私を恨んでいるんだろうな…)
総司は目を伏せた。




