第41話
礼庵の診療所-
美輝の遊郭で遊女が殺された翌日、総司はたまたま礼庵の診療所へ立ち寄った。
しかし、礼庵に元気がないことを婆から聞くと、あわてて礼庵の部屋へと向かった。
が、礼庵の部屋には誰もいなかった。
ふと気づいて、以前貸してもらった離れへと向かった。
そして、離れの前で一つ息をつくと、総司は声をかけた。
総司「…礼庵殿…おられますか?…総司です。」
中から「はい」という驚いたような声がした。
総司「…入っていいですか?」
「どうぞ」という返事を聞き、総司はゆっくりとふすまを開いた。
中には、目を真っ赤にした礼庵が座っていた。
礼庵「…申し訳ない…ちょっと…ありまして…」
総司「よかったら、お話を聞かせてもらえませんか?お役に立てるかどうかわかりませんが…」
礼庵はうなずいて、昨日の遊郭の話を総司に話し始めた。
……
話を聞き終えた総司は、険しい表情で腕を組み、畳を睨んでいた。
総司「医者か…。しかし、その「くろろほるむ」とは医者しか持っていないものなのでしょうか?」
礼庵「たぶん。そう簡単に手に入るものではない…と東さんはおっしゃっていましたが…。ただ、商人なんかは、もしかするとなんらかの方法で、手に入れることができるかもしれない…」
総司「…商人か…なるほど…。」
新選組を動かせるような話ではない。これに、討幕派がからんでいれば別だが…。
総司「表立って協力はできませんが、中條君達にもお願いして調べてみましょう。」
礼庵「ありがとうございます。」
礼庵は深々と頭を下げた。総司があわてて頭を上げるように行った時、何か部屋の外があわただしくなった。
総司「?…なんだろう」
2人がふと顔を見合わせたのち、礼庵が立ち上がり、ふすまを開いた。
すると、昨夜遊郭に来ていた番所の役人が立っていた。
総司は、予感して思わず立ち上がった。
役人「医者の礼庵だな。…一緒に番所へ来てもらう。」
礼庵「私が?…何故?」
役人「あの東という医者も先に捕まえた。」
礼庵「!?」
役人「医者が絡んでいると言ったのはおぬし達だ。…だから、京の医者を1人1人牢に入れて調べることにした。…お前達だって例外にはできん。…まず、その場にいたおまえら2人から、調べさせてもらう。」
役人がそうにやりと笑った時、総司が前に進み出た。
総司「お門違いだ。…この人は連れて行かせません。」
役人は、めんどくさそうな表情で総司を見たが、やがてぎくりとした表情になった。
総司「おわかりですか。…新選組副長助勤 沖田総司です。」
役人は急に態度を変え、その場に膝をついた。
役人「これは…失礼を…」
総司「京の医者を牢に入れるなんて言語道断でしょう。…彼らを頼りにしている患者達はどうなります?…そんな安直なやり方で、簡単に事が済むと思っているんですか。」
おだやかな口調だが、語気は強かった。役人はただその場にひれ伏すだけだった。
総司「医者を調べると言うのなら、捕まえるのではなく、あなた達の方から出向きなさい。とにかく、今言っていた「東」という医者も解放するように。…すぐにです。」
役人「…は、はぁ…」
役人はもごもごと謝罪の言葉を述べると、十手持ちをつれて、あわてて出て行った。
礼庵は、目に手を当ててその場に座り込んだ。
総司「礼庵殿!大丈夫ですか!?」
総司が驚いてしゃがみこみ、礼庵の肩に手を乗せた。
礼庵「ありがとうございます。…おかげで助かりました。」
総司「いえ…まさか自分の名前が、こんな風に役に立つとは思いませんでした。」
総司は、そう言って笑った。




