第40話
島原 遊郭の一室-
東は、泣いている遊女を礼庵に任せ、1人部屋に入った。
部屋の中では、若い遊女が薄着1枚の姿で首を切られて死んでいる。しかし、その顔はまるで眠っているように穏やかだった。
死んだ遊女に顔を近づけた時、東はある匂いに気づいた。何度か嗅いだことがある、その匂い…。
東は遊女の唇に鼻を近づけた。そして、表情を曇らせた。
東「!!…礼庵!」
礼庵「はい!」
東「この遊女の口元に近づいてみろ。」
礼庵は不思議そうな表情をしたが、東の言うとおりにした。その時はっとした表情になった。
礼庵「!…この匂い…」
東は、死んだ遊女の反対側にいる礼庵の顔を見た。
東「わかるか?…くろろほるむだ」
礼庵はうなずいた。
礼庵「まさか…あの薬で遊女を眠らせて…?」
東「まさかじゃない。きっとそうだ。しかし、抵抗しない遊女に、何故そこまでして殺す必要がある…?」
礼庵「……」
礼庵にも、もちろんわかるはずもない。
礼庵「ただ…下手人は、たぶん医者でしょうね…。」
東「それも…言いたくはないが、外科医だ。」
礼庵は、神妙な表情で東を見た。
東「許せんな。…くろろほるむをこんな使い方しやがって…。絶対に捕まえなきゃ、気がすまねぇ。」
東は歯軋りしていた。
……
しばらくして、番所から役人が来た。
遊女をいろいろ調べたのち、東と礼庵からも話を聞くと、その日は帰っていった。
美輝が礼庵の背中に伏して泣いている。
そして礼庵はじっと殺された遊女の姿を見つめ、必死に涙を堪えていた。




