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第39話

島原 夜中-


礼庵は、自分の膝にしがみつくようにして寝入っている美輝の背中を撫でながら、じっと黙って座っていた。


礼庵(少しでも、気持ちが落ち着いたのならいいのだけれど…)


さっきまで、ずっと美輝はしゃべっていた。虫の好かない客の話、やたらと奥さんの悪口を話し続ける客の話…。聞いていて辛いが、礼庵には話を聞くぐらいのことしかできない。美輝は何刻もしゃべりつづけて、とうとう寝てしまった。


礼庵(身請けか…。本当に考えてあげないとな…)


礼庵は真面目にそう思っていた。いつか、美輝をこの世界から解き放ってやりたかった。


その時、突然、女性の悲鳴がした。

礼庵は、はっとして思わず立ち上がりかけた。膝が揺れ、美輝が目を覚ました。


美輝「…なんどすか…?」


礼庵はあわてて座った。


礼庵「すまない、美輝殿…。何か悲鳴が…」

美輝「!…悲鳴…?」

礼庵「ここにいててください。…ちょっと行ってみます。」


礼庵はそう言って、部屋を出ようとした。

美輝があわてて、その礼庵の袴のすそにすがりついた。


美輝「あきまへん!…先生になんかあったらどうするんどす!!…先生もここにいはった方がええどす!」

礼庵「…しかし…!」


その時、障子が勝手に開いた。


「礼庵!!」

「!!…」


東が、下帯姿に着物をひっかけた状態で立っていた。

礼庵は思わず目を手で覆い「なっなんです?」と答えた。


東「ばか!男同士で照れる奴があるか!」


と言ってから、ふと礼庵の姿をまじまじとみた。


東「…?おまえ…まだなにもしてないのか?」


礼庵は真っ赤になった。


礼庵「そんなことよりも、どうしたのです?」

東「あっそうだ!今の悲鳴…」


東はそう言って、思わず廊下を見渡した時、廊下の奥で一人の遊女が、両手で顔を覆って泣いている姿が見えた。


東「!行こう!」

礼庵「はい!」


2人はその遊女に向かって走り出した。


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