第38話
島原 夜-
東と礼庵は美輝のいる遊郭に向かっていた。
礼庵「東さん、美輝さんが他のお客さんに取られていたら、私はすぐに帰りますからね。いいですね。」
東「わかったわかった。本当に惚れてるんだなぁ、お前。…うらやましいなぁ…そこまで女に惚れてみてぇ…」
礼庵「……」
礼庵は返答に困り果てた。
東「まじで身請けしてやったらどうだ?…ああいう仕事って辛いもんだしさ。」
礼庵「それができたら…とっくにしてますよ。」
東「…そうだなぁ…売れっ子だから、ちょっとやそっとの金じゃ、遊郭が手放しそうにないもんなぁ。」
東はそう同情しながらも、美輝の遊郭を見つけると、鼻歌まじりに足早に向かい始めた。
礼庵は苦笑しながら、東に続く。
「おこしやすー!」
女性の色っぽい声が二人を迎えた。すっかり日が落ちているというのに、遊郭の中は昼間のように明るい。
礼庵は遊女達の不自然な笑顔を見るのが辛かった。遊郭に入る時には、いつも何か胸が苦しくなる。
が、奥から走り出てきた遊女を見て、すっとその胸の苦しさが取れた。
「礼庵せんせーー!」
美輝が礼庵の胸に飛び込んできた。
美輝「お元気どしたか?…来てくれはってうれしいわぁ。」
礼庵「美輝殿も…お元気そうで安心しました。」
美輝「うちは先生に会おたら、いつでも元気になりますよって。さ、中へお入りやす。」
美輝は礼庵の手を取って、中へ向かった。
礼庵「お客さんは?」
美輝「うちは今ちょうど空いたところどす。」
礼庵「そう…ですか。」
礼庵はふと東の姿を探した。いないのである。
美輝「ああ、東はんという方どしたら、もう他の子が連れて入りましたえ。」
礼庵「そう…それならよかった…」
美輝は礼庵を部屋に入れると、再びすがりついてきた。
美輝「礼庵せんせ…今夜はずっといられるんどすか?…」
礼庵「ええ、いるつもりですよ。」
美輝「ほんまどすか!!ほな、すぐお酒を持ってきますさかい!」
美輝は嬉しそうに部屋を出て行った。
礼庵は苦笑しながらその場に座った。
礼庵(…ちょうど空いたところだと言っていた…。…疲れてるんじゃないかな。)
礼庵は複雑な心境で、美輝を待っていた。




