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第37話

京の町中-


礼庵は往診を終え、家に向かって歩いていた。

夕方の道は、何かと人通りが激しい。人とぶつからないように気をつけながら歩いていると、後ろから自分を呼ぶ声がした。

それも呼び捨てである。

自分を呼び捨てにする相手は一人しかいない。振り返ると、案の定、外科医のあずまが遠くから手を上げて自分の名を呼んでいた。


東「礼庵!!…そこで止まってろー!」


礼庵は苦笑してうなずきながら、東が近くまで来るのを待っていた。

東はやっとの思いで礼庵の傍まで来ると、礼庵の肩にもたれかかりながら、息を整えた。


礼庵「あんまり大声で人の名を呼ばないで下さい。恥ずかしいじゃないですか。」


礼庵が笑いながらそう言うと、東は笑った。


東「だって、久しぶりだから、ついさ。…おまえ、相変わらずの色男だな。」

礼庵「東さんほどではありませんよ。」


東は苦笑した。


東「そうかなぁ…。最近、女に縁がなくてね。…なぁ、今夜空いてたら、島原に付き合ってくれないか?」


礼庵は笑いながら、歩き出した。


礼庵「嫌ですよ。また逃げる口上を考えなくちゃいけないし。」

東「ほら、お前の遊女…美輝って言ったっけか!あそこでいいからさ。あそこだったら逃げる必要ないだろう?なぁ…」


東は礼庵の背中で、手を合わせながら言った。

礼庵は思わず立ち止まった。


礼庵「…美輝殿か…。久しぶりに会いたいけれど…。」

東「なっなっ!?行こうよ!!…お金のことは心配しなくていいからさ。」

礼庵「…仕方がないですねぇ。」


礼庵は、半分呆れ顔で振り返った。


東「よしっ!じゃぁ、暮六つに壬生寺でな!…絶対来いよ!色男!」


東は思いっきり礼庵の肩を叩くと、走り去っていった。


礼庵「…色男って言われるのは…さすがになれないなぁ」


礼庵は苦笑して、叩かれた肩をさすりながら呟いた。



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