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第36話

屯所への戻り道 夜-


総司は、月明かりを頼りにゆっくりと歩いていた。


総司「夜はまだ肌寒いな。」


そう呟いたとき、ふと後ろから人がつけてくるのを背中に感じた。

総司は知らぬふりで、歩く速さも変えずに歩いている。


が突然、こいくちを切ると同時に振り返り、刀を振り下ろした。

静かな夜道に、がちん!という刀の重なる音が響いた。


「…びっくりしたぁ~~~」


その泣き出しそうな声に、総司は相手と刀を重ねたまま、くすくすっと笑った。


総司「お見事ですね。中條君。」


総司はそう言って、刀を納めた。

中條は大きくため息をついて、同時に刀を納めた。


中條「僕とわかってたのに、抜いたんですか?」

総司「いや、殺気がなかったくらいしかわからなかったな。」

中條「???殺気がないのに、斬ろうとなさったんですか?」

総司「…確かにそうだね。」


総司はくすくすと笑いながら、歩き出した。実は、中條とわかっていて刀を抜いたのだが…。


総司「…いつも、この時間は外に出るのかい?」

中條「えっ?…いえ…そんなことは…」

総司「脱走もほどほどにしないと、いつか土方さんの耳に入ってしまうよ。」

中條「はぁ…。」

総司「今日は何をしていたの?」

中條「…畑野さんの…供養をと思って…」

総司「!?…」


総司は驚いて、中條に振り返った。


中條「いえ…ただ、畑野さんが斬られた場所に花を供えに行っただけなんですが…。」

総司「…そうか…」

中條「…まだ、あの場所に畑野さんの魂が残っているような気がしてならないんです。花を供えたくらいで、成仏してくれるとは思いませんが…。」

総司「……」


中條もいつもと変わりない風に見せていても、まだ畑野の死から、立ち直れないでいるのだった。

山野や木田も同じに違いない。

二人は、お互い何も言わず黙って歩いた。

畑野との思い出を心に浮かべながら…。


※畑野のお話は「一番隊隊士 中條英次郎「同士の死」」をどうぞ。

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