第34話
川辺--
総司と可憐は手を繋いだまま、ゆっくりと川辺を歩いていた。
まだ桜は咲いていない。が、ふくらみかかった蕾を見るだけでも、二人は満足していた。
総司がまだ桜の咲かない時期にもかかわらず、可憐を外へ誘ったのは、今度いつ会えるかどうかわからないからであった。
桜が咲いてから会おうと思っていたのだが、今まで梅の咲く2月にも桃の咲く3月も、同じことを思っていながら、会うことができなかった。
だから、もしかすると桜の咲く頃も同じように会えないかもしれない…と思ったのである。
可憐「…もう少しですわね…」
総司「え?」
可憐「桜ですわ。…もしかすると、明日にでも咲いてしまうかもしれませんわね。」
総司「…そうかもしれません。…でも、それも寂しいな。桜は散るのも早いから…」
可憐は黙ってうなずいた。
総司は手を離さぬまま、可憐に振り返った。
可憐は、総司を見上げた。
総司「さっきは…つまらぬことを言って、すいませんでした。」
可憐「つまらぬこと?」
総司「…務めの話です。…あなたには関係ないのに…」
可憐「つまらぬことだなんて思いませんわ。どんなことでも話して欲しい…と前にも言ったではありませんか。」
総司「…ええ…。でも…」
可憐は、総司の口に自分の指を当てた。総司は驚いて口をつぐんだ。
可憐「お返しですわ。…総司さまも、私が謝るとよくこうなさいますでしょう?」
総司は苦笑した。可憐は下向き加減に言った。
可憐「…畑野さんという方は、私もお気の毒に思います。…でも、どうか畑野さんのお相手の方を責めないでください。」
総司「!?…」
可憐「…きっと今でも、亡くなった畑野さまのことを想っていらっしゃると思います。でも…どうしようもなかったんですわ。…総司さまと私も、以前は親に反対された仲でした。…あの時は、私も親に逆らえず、総司さまと礼庵先生の優しさに甘えて、隠れてお会いするのがやっとでした。…きっと畑野さんという方達もそうだったのです。」
総司はうなずいた。きっと畑野の想い人にも事情があるのだろう。そして、そのことを死んだ畑野もわかっているに違いない。
総司「…可憐殿…」
可憐は「はい」と答えて顔を上げた。
総司「…胸のつかえが取れました。…ありがとう…。」
可憐は嬉しそうな顔をして頬を染めた。
総司は手を広げて、そっと可憐の体を包み込んだ。
可憐はされるがままに、総司に体を預けた。




