第33話
礼庵の診療所--
しばらく沈黙していた二人だったが、やがて総司が微笑んで可憐に向いた。
総司「…すいません…せっかくお会いできたのに…」
可憐「いえ…そんな…私のほうこそ…総司様のことも考えずに…」
総司は、首を振った。
総司「…そうだ…ちょっと外へ出ましょうか。」
可憐「…え?」
可憐は驚いた表情をして、顔を上げた。
総司「…だめ…ですか?」
可憐「いえ!…もちろんご一緒させていただきますわ。」
可憐の頬に赤みがさした。もうこのまま帰ったほうがいいのではないかと思っていただけに、嬉しかったのだ。
総司「桜はまだ早いかな…でも、もう蕾が出てきていると思うんですよ。…鴨川沿いまでちょっと出てみましょうか。」
可憐「はい…!」
二人は立ち上がった。
……
総司と可憐が礼庵に桜を見に行くと告げると、礼庵が「ああ、それなら…」といい、微笑んだ。
礼庵「堀川沿いの方が、膨らみが大きくなっています。そちらの方へ行かれては…?」
総司と可憐はその礼庵の案に同意し、堀川へと向かった。
近いとも言えないが、散歩にはちょうどいい距離である。
二人は外へと出た。
日は高いが、まだ肌寒い。
総司「大丈夫ですか?…寒くない?」
総司が、後ろを歩く可憐に振り向き言った。
可憐「ええ、大丈夫です。」
可憐は「総司さまと一緒ですもの」といいかけたが、恥ずかしくなって口をつぐんだ。
総司はそれに気づかぬ風で、安心して微笑むと、前を向き歩き始めた。
…が、突然立ち止まった。
可憐はぶつかりそうになり、息を呑んで総司の頭を見上げた。
可憐「総司さま?どうしましたの?」
総司は前を向いたまま、可憐の方へと手を差し出した。
可憐「…!」
可憐の顔が赤くなった。…が、やがてその手に自分の手を乗せた。
総司は振り返らぬまま、その可憐の手を握ると、ゆっくりと歩き出した。
可憐も手を引かれるまま歩いた。
また二人、黙ったままでいる。




