第32話
礼庵の診療所-
総司は礼庵の厚意で、想い人可憐と縁側に座っていた。
ずっと会えないでいたのだが、礼庵が二人に気を遣い、総司の非番の日に合わせ、可憐を呼んでいたのだった。
このところ総司は、自分から可憐に文を書くことがなくなっていた。
出動が多くなってきたことなど忙しいこともあり、会う約束をしても守ることができない不安があったからである。
だから非番が決まっていても、ずっと文を出すこともできずにいたのである。
それを察した礼庵が総司の来る日を予測し、この日可憐を呼んでいだのであった。
礼庵の予測はみごと的中し、二人は何ヶ月ぶりかの再会を果たしたのである。
総司は久しぶりに可憐に会えたと言うのに、表情が固いままだった。
礼庵は、自分に対して気を遣っていると思い、その場を離れ、二人だけにした。
しかし、二人きりになっても、総司の表情は変わらなかった。
可憐「…総司さま…ごめんなさい…私…」
可憐は怯えたように切り出した。
可憐「私…総司さまのことも考えずに…礼庵先生に無理を言って…」
総司はそれを聞いて首を振った。
総司「…違うんです。…ちょっといろいろあって…。」
総司はそう一旦言葉を切ってから、これまでのことを話しはじめた。
「畑野」という隊士が、腕を斬りおとされ死んだこと。
その隊士の死を畑野の想い人に伝えに行ったところ、家人に塩を撒かれて追い帰された事…。
そのために「木田」という若い隊士が局中法度を犯し、脱走をはかったこと。
総司は今でも、その事が吹っ切れずにいた。
木田は無事戻ったが、それですべて解決したとは思っていない。
死んだ畑野の魂も、成仏したとは思えないでいたのである。
可憐はそんな総司の苦悩を知り、どういう言葉をかければいいのかわからずにいた。
ただ二人は、黙って座っている。




