第29話
京の町中-
一番隊の巡察中である。
先頭を歩いている総司は、町中で、昨日壬生寺で会ったナミを見つけて困惑した。
ナミの方も驚いた表情でこちらを見ている。
総司は思わず目を反らせた。見られたくなかったのである。
昨日会ったナミの父親は、浪人姿だった。もしかすると、討幕派の人間かも知れない。
昨日は、お互いのことを名乗らずに別れた。相手も聞こうとしなかったし、総司も聞こうとは思わなかった。
…それがお互いのためだと、向こうも思ったに違いなかった。
……
巡察は滞ることなく終わり、一番隊は屯所近くまで帰ってきていた。
総司は、昨日のナミのことが気がかりで、この巡察が終われば、また壬生寺へ行こうと思っていたのだが、巡察中に出会ったことで、行きづらくなってしまった。
総司「解散します。今日もお疲れ様でした。」
総司はそう隊士達をねぎらうと、部屋へと戻った。
総司(…どうしよう…)
総司は隊服を脱ぎながら、悩んでいた。
総司(やはり…行かない方がいいな…)
結局、そう決めて、ごろりと体を横にした。
その時、外から「失礼します」という若い隊士の声がした。
「沖田先生に会いたいという方が門のところで待っておられるのですが…どうなさいますか?」
それを聞いたとき、総司の脳裏に昨日の浪人が浮かんだ。
総司「…わかりました。すぐに行きます。」
総司は体を起こして、立ち上がった。
……
総司は、屯所の門前でナミとその父親が待っているのを見て驚いた。
まさか、ナミまで一緒に来ているとは思わなかったからである。
総司は父親に頭を下げ、ナミににっこりと微笑んだ。
総司「ナミちゃん、こんにちわ。」
ナミ「こんにちわ。おじちゃん…今日…お寺へ来てくれなかった…」
ナミが呟くように言った。
総司は目を見開いた。待ってくれているとは思わなかったのである。
総司「…ごめんよ。…ちょっと…用があったものだから…。」
総司は口篭もりながらそうあやまった。
父親は申し訳なさそうに「ちょっとお話が…」と総司に言った。
総司はうなずいて「歩きましょうか」と言って、川の方へ向かって歩き出した。




